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2.ヘルス・リテラシーについての詳細説明
(健康に向けた知と技能)

このページの最後には、ヘルス・リテラシーについて分かりやすく説明されているPDFと動画があります。

リテラシーとは物事を理解し、それに通じることですから、ヘルス・リテラシーとは、健康を理解し通じること、一言でいえば、「健康に向けた知と技能」ということになります。したがって、ヘルス・リテラシーは、「健康というものをどのように理解していますか」と問われた時、どこまで深く答えることができるかに関わっています。概要では、「知」については多様な視点があり、複眼的に見る必要があること、最も基本的な視点は健康の定義法に関わるものであり、ポジティブヘルスとネガティブヘルスのバランスが大切となると述べました。

健康の理解の仕方には、大別して二つの視点があるのですが、その一つが、健康の定義法に関わる視点です。このことを学ぶためには、まず、広く世界の人びとに受け入れられているWHOによる健康の定義を理解する必要があります。"「健康」をどのように定義するかは、治療実践や医療組織と保健医療政策に影響を与えると同時に、逆にそれらを通じて「健康」の問題がどのように理解されているかを照らし出すことができる"からです1)

世界保健機構(WHO)による健康の定義

皆さんは病気でさえなければ健康だと思いますか? 実際にはそれだけではなく、身体や心の状態が良い上に、周りの社会の人々との関係も良くないと健康とは言えません。つまり健康の定義には、病気ではないという面と、身体と心と人間関係が良いという面の、二つの面があるのです。後者は包括的かつホリスティック(全人性)の面と言われます。

現在、多くの健康の定義は、1946年に世界保健機構(WHO)が定めた世界保健憲章の前文にある"Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity." (健康とは、肉体的・精神的・社会的にまったく良好な状態であり、単に疾病や病弱が存在しないことではない) が用いられています。このWHOによる健康の定義については、 WHO憲章全体の見直し作業の中で、"Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity." と改めることが、1998年(平成10年)のWHO執行理事会で採択されました2)。(注:現在まで、この改定案は総会で採択されるには至っていませんが、"dynamic state(動態的状態)"という言葉は後からも議論しますが、重要な概念を表しています。)

この定義は、前段のポジティブな言葉によって健康を身体的・精神的・社会的、すなわち、全人的(holistic)に良好な状態として捉えている部分(本学ではこれをポジティブヘルスと呼ぶことにしています)と、後段の"病気"というネガティブな言葉を用いて要素分解的に、つまりいろいろな病気に分けてとらえている部分(ネガティブヘルス)の、両者を考慮する必要があるといっています。それに加えて、健康履歴の動態的性質(dynamics)、言いかえれば"健康状態のゆらぎ"を考慮する必要があるともいっています。その意味は、「健康と疾病は別個のものではなく連続したものであるから」です。確かに健康と病気の境目はあいまいでありゆれ動いているというべきでしょう。なお、ポジティブヘルスにおける"全人的"という言葉は、「人間全体はその構成要素を足し合せたもの以上である」とする立場を意味しています。

ヘルス・リテラシー概念の一つのポイント

以上のWHOによる定義から、「健康というものをどのように理解していますか」という質問に対しては、「ポジティブヘルス」と「ネガティブヘルス」の均衡(バランス)が重要だということにまず気づかなくてはなりません。

このうち、ネガティブヘルスについては、毎年学校や職場や市町村が行う「健康診断」で数値的にチェックされてきました。これはリスク管理の健康法と言えるものですが、それにも拘わらず、健康向上とは逆に、がんや心筋梗塞、糖尿病、慢性腎臓病、脳梗塞などの生活習慣病にかかる中高年齢者が年々増えてきています。そのため、国は中高年齢者を対象に、通称メタボ健診と呼ばれる"特定健診・特定保健指導"制度を発足させました。しかし、若者は対象になっていません。

一方、身体的・精神的・社会的、すなわち、全人的に良好な状態を指すポジティブヘルスについては、本質的に人それぞれであり、しかも動態的であるため、これを病気の診断をする時のようにある基準値で数値的にチェックすることはできません。したがって、健康に導くとみなされる、より望ましい生活習慣のあり方を個人が学び、健康向上をめざして、それを自己管理していくより方法はないのですが、そのための積極的な「挑戦の健康法」は、これまでは制度化されていませんでした。

健康の理解の仕方についてのもう一つのポイント

健康の理解の仕方については、大別して二つの視点があり、その一つは、健康の定義法に関わる視点だと述べました。もう一つの視点は、ちょっと難しく言うと価値の単位に関わる視点です。言いかえると、「健康という問題は誰に向けられた問いでしょうか」という質問に対する回答にどう答えるかという視点です。この問いに対してあなたは何と答えますか。「あなた自身」への問いかけでしょうか。それとも「社会」への問いかけでしょうか。 病気にかからないように常日頃から健康向上に努めることは個人の問題ですが、それも"健康な社会"があってのことですね。このことは大震災後の被災地のことを考えれば理解できると思います。震災で社会自体が崩れかかった地域ではその復旧と復興がなければ個人の健康向上は困難だからです。要するに、健康問題は、個人に向けられた問題であると同時に社会にも向けられた問題でもあるのです。

このように、ヘルス・リテラシーの視点に立ってみますと、健康問題は、健康の定義の仕方をポジティブヘルスとネガティブヘルスのどちらの立場を重視するか、また、個人と社会の何れを重視するかに依存して、健康向上に向けて実践すべきことが全く異なることに気がつきます。そして今日の日本は、少なくとも震災以前は、ネガティブヘルスと社会が偏重される"監視型社会"になっていたように思われます(図1参照)。

結果的には、類まれな高寿命社会が実現したにも拘わらず、高齢者が幸福な生を全うするには難しい、「長命地獄)」と言われるような"逆説"が生じています。したがって、この逆説を解消すべく、ポジティブヘルスの視点に立ったヘルス・リテラシー向上法とそれに基づく健康向上法を急ぎ開発し、個人と社会の両面からバランス状態に引き戻すことが重要です。震災後で社会そのものが崩れてしまった地域においては、東北地方に限らず、このことは重要です。それには、これからの日本を背負って行かれる若者の意識改革が欠かせません。tfu元気点検票、及び、その行動項目から創案されたtfu元気点検票かるたは、このための支援ツールとみなされます。tfu元気点検票かるたについては、このHPの「TFUリエゾン・ナビ」の第8章4節:「tfu元気点検票かるたをやって見よう」をご覧ください。

は、それぞれ、黒の点線矢印の方向に偏った場合の状態を示す。少なくとも震災前は、ネガティブヘルスと社会が偏重される監視型社会になっていたと見られる(出典:庭野他3))。震災後は、個人と社会の両面からこれを均衡(バランス)状態に引き戻す(赤矢印)ことがことのほか重要である。

最後に、ポジティブヘルスとネガティブヘルスの両面をバランスよく常に考慮する文化を、単に健康問題だけでなく、それと隣り合わせにある福祉の問題、さらには教育の問題、・・・についても、育み、皆さん方の子どもたちに伝えて行って欲しいと思います。

以上の説明を分かり易くした 動画(約20分)がyoutube上に、また、そのPDFが用意されていますので、ご覧ください。

参考文献

1):
阿部四郎「現代の健康論に関する一考察」『東北福祉大学感性福祉研究所年報』、7、1-14、2006
2):
厚生労働省ホームページ:
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1103/h0319-1_6.html [accessed Jun. 9,2011]
3):
庭野賀津子、河村孝幸、水野康、鈴木玲子、皆川州正、大内真弓、西野美佐子、山本光璋、阿部四郎「ヘルス・リテラシー理論の再構築」『東北福祉大学感性福祉研究所年報』12、45-54、2011
4):
久道茂「公衆衛生の責任 ―これからの保健・医療をめざして―」東北大学出版会、229、2000

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