【教員クローズアップ】上條晴夫 教授

学級崩壊に導かれた教師教育 〜子どもたちの未来のために〜

授業がバラエティー番組に!?

開始から教室に笑いが渦巻く上條教授の授業
昼下がりの教室が、小劇場と化した。「じゃあ、チェックインを始めよう」。集まった12人の学生へ切り出し、幕が上がる。学生は一人約1分程度のスピーチを始め、今の自分の気持ちやその日の面白エピソードを述べた。対して上條教授は、間髪入れずツッコミを続ける。司会者とひな壇芸人がやりとりする、テレビのバラエティー番組のような笑いの絶えない授業の始まりは、およそ10分。すっかりリラックスした学生たちを見ると、本題へと進めた。

「1対1型授業」として、学生が二人一組となり、それぞれ設定した教えたい事象を相手へ伝え合った。まずは10分間でのプランニングが始まった。静寂な教室に「コツコツ…」とシャープペンが机をたたく音だけが響く。笑いが渦巻いた数分前とは対照的だ。制限時間が過ぎ、お互い5分ずつ授業を展開。その後3分間で、授業の振り返り(リフレクション)を行い、一人ずつ箇条書きした。

リフレクションで授業の質を上げる

席を立ち、学生の間に立ってツッコミを交えながら リフレクションの方法を説明する上條教授
リフレクションは、相手と自分の「Wanting(望んでいること)」、「Doing(していること)」、「Thinking(考えていること)」、「Feeling(感じていること)」で8通りできるという。リフレクションを終えた学生の発表は、自分が思ったことに終始するか、相手の単純な動きのみを振り返るかが、ほとんど。上條教授は優れた教師の振り返り例を記したプリントを配りながら「初心者は、自分のことは振り返られる。僕は相手の反応が気になる先生だったけどね。授業について振り返られる先生は、授業がうまくなる」と学生たちに説いた。

計算された時間配分や展開に、90分の授業時間が過ぎるのはあっという間。最後に行った「リフレクション」こそが現在、同教授が研究と普及に最も力を注ぐものだ。

「お笑い教師同盟代表」

上條教授の著作の一部。 単著・共著など合わせれば50を超える
単著、共著など合わせて50冊以上の本を書いた上條教授は、メディアには「お笑い教師同盟代表」という肩書で登場することもしばしば。もともとは小学校教諭だった。「高校の適性検査で教師が合う、と出たこともありましたが、子どもが好きだったんです。家庭訪問でも(訪問先の児童のきょうだいで)小学校2年生以下の子がいると、ウケが良かったなあ」と教員を志し、現場で教鞭をとった日々を振り返る。

地元山梨での10年間の教員生活ののち、教育ライターに転身。「書くことも編集も好きだったので。学級通信で書きためたもので、5年は食っていました(笑い)」。教育専門誌の編集長も務め、「ディベート甲子園」の立ち上げにも参画した。そんな中、転換点とも言える現象にぶち当たる。1997年から問題となり出した「学級崩壊」だ。

「学級崩壊」に向き合って

学級崩壊と向き合い、 現在は教師教育に力を注ぐ上條教授
授業が始まっても席に座らない、教師の言うことを聞かない、暴れる。集団教育が成り立たない小学校を中心とした「学級崩壊」を、国内で最も早く取材し問題提起した。「教育方法の、本格的な見直しをしないといけない」と、ディベートに加えワークショップ(参加型学習)など授業開発に力を入れた。先のお笑い教師同盟も、子どもと上手に付き合う授業技術のヒントがお笑いにあるとして、立ち上げたものだ。

そんな中、新任のみならず、ベテランの教員が辞めていく問題も起きていた。学級崩壊とともに、熟練たちの心も崩壊していく。かつては考えられなかった事象の原因は、子どもたちだけにあるものなのかー。

教育方法の研究から教師教育学へ

10年ほど前、関東のある小学校へと向かった。学校関係者から「崩壊したクラスはない」と初めは聞いていた。だが帰り道、その関係者は「本当はあるんです」と切り出し、続けた。「教師って、わがままでしょう」。

真意を図ろうと「わがままって、どういうことでしょう」と問い返すと「教師というのは、自分の信念に基づいて、教育方法を決めているじゃないですか」。確かに、大学で学んできた教育理論や授業技術、学生時代までの経験から導かれる授業のあり方への強い思い…それらの蓄積があって、教師は教壇に立っている。

わがままと信念を、近似なものとして説明してくれた関係者の言葉から「教師は信念に基づき、授業をしているという当たり前に辿り着くんです。例えば、子どもが座っていないのはコミュニケーションをとりたいからで、『子どもは黙って座るもんだ』という信念が強すぎると、子どものNOを受け入れられない。教師の信念から、学級崩壊が起こるんです。『クラスの40人をまとめられないと一人前じゃない』と思っていると、クラスが壊れる、心が壊れるんですね」。

教育方法を研究し、ディベートやお笑いなど子どもたちの「学びのしかけ」を提案してきたが「理論やスキルを伝えるだけ、方法論を教えるだけでは、今の子どもたちの状況を考えれば足りないと思った」。必要なのは子どもに触れる教師が、自身の現場での経験から学ぶこと。教える側の“学びのしかけ”として「信念を含めた組み換えができる」(上條教授)リフレクションを重視し、教師教育、教師教育学へと邁進(まいしん)していくことになる。

教師の卵の言葉に、耳を傾ける

2006年に東北福祉大に来て10年。自身の研究以上に、教師の卵である学生の教育に時間をかける。「うちの教育学部は経験値を上げる教育をしています。実学を大切にしていますから」。教員免許取得希望者の教育実習はもちろんのこと、1年時から4年間「教育実践活動」として小学校などに出向き、現場を体験していくカリキュラムが本学にはある。加えて、上條教授の授業ではリフレクションをより丁寧に行い、経験や体験を知恵へと変えていく。

研究室には学生の姿が絶えない。「かつては自分が身につけたものを与えよう、と思っていましたが、今は学生の話を聞きます。聞く中で相手の理想やアイデンティティーを知って、提案をしています」と学生の言葉に耳を傾け、親身にアドバイスを行う。ときには学食に呼び、話しこむこともある。

「子どもの教育に情熱を持つ人と一緒に、学びたい」。教育現場を見つめ、実践を続けるのは、未来が子どもたちの手にあるからだ。




上條 晴夫(かみじょう はるお)

教員業績

職階

教授

研究分野

教師教育学、教育方法学、ワークショップ

担当教科
教育学演習、国語科概論、国語科教材研究、国語科指導法、等

研究内容
長く教育現場のニーズに応じた授業の開発研究を行い「作文」「ディベート」「学習ゲーム」「ワークショップ」「インクルーシブ教育」など様々なジャンルを扱ってきました。 特に「学級崩壊=授業不成立」現象が知られるようになってからはどのような授業方法が実践的に有効か、現場教師の方たちとの共同研究を通じて考察を行っています。ここ数年は「教師教育」に特化した質的研究に力を入れています。

ゼミ紹介
ゼミナールの活動では教師教育の様々な方法(模擬授業、フィールドワーク、サービスラーニング、キャリア・カウンセリングほか)を用いつつ、長期的な活動の中で主体的に考えながら学ぶ訓練を行っています。

高校生に向けて一言
いまわたしの最大の関心事は対人支援職(教師その他)の専門性開発です。学習者それぞれの強みをいかに引き出し、強みに基づいた技を身につけるか。一緒に学び合いましょう。

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