【教員クローズアップ】生田目学文 教授

地球規模の問題を見つめ、解決策を探ろう 〜安全保障から福祉を追求する〝ミサイル防衛専門家〟〜

ジャーナリストの出で立ち

揉み上げから口元、あごへとつながる囲みヒゲ。柔和な顔つきだが、ジャーナリストにも似た只者でない雰囲気が、プンプン漂う。そんな生田目教授の専門は、やはりというべきか「国際政治」「安全保障」。特に後者は、2015年のキーワードとなった分野だ。

米国の大学院で、核軍縮・軍備管理の理論を学んだ。「日本のミサイル防衛」が博士論文だった。「私は軍縮、核廃絶論者ですが」と前置きした上で、「複雑な側面はありますが、安全保障は『いかに戦争を防ぐか』という観点から発しています。理論的には、攻撃と防御。攻撃力の安易な増強は、かえって脅威の増大につながります。防御を強化することによって攻撃されるのを防ぎ、戦略的安定を実現する。専守防衛の考えです。それを崩してはいけない。ミサイル防衛も、基本的には武器を減らしたいという考えからです」と、かつて自身が手がけた論文を振り返りつつ持論を展開した。

しかし、これが福祉と、どう関係があるのだろうか。 

個々人への脅威に対して…「人間の安全保障」

安全保障という言葉には、どうしても国家間の政治的・軍事的なイメージがつきまとう。日米安全保障条約など、これら従来型の概念は主権国家体制の維持・生存を目的としたもので、「伝統的安全保障」とも呼ばれる。一方で生田目教授が今、研究に力を注ぐのは「人間の安全保障」。1994年、国連開発計画の「人間開発報告」で初めて公に登場した概念だ。

簡単にいうならば、個人の生存、尊厳の保障を目的とし、紛争など武器拡散からの人々の保護のみならず、飢餓、貧困、格差、暴力など、人間一人ひとりがさらされる脅威に対する「安全保障」を目指す考え方である。これは、適正な生活水準を保つなど、幸福への援助として国家内部型だった福祉が、世界規模へと広がった「人間福祉」の考えとリンクするものだという。 

ストリートチルドレン芸術祭

貧困問題に対して、生田目教授と本学学生が力を合わせる取り組みがある。「ストリートチルドレン芸術祭」というものをご存じだろうか。全世界で1億人を超えるという、路上生活を余儀なくされている子どもたち。いわゆるストリートチルドレンと呼ばれる彼らに描いてもらった作品の展示や、その作品からカレンダーを作成し販売収益金を還元する、2005年の「愛・地球博」から続く日本国内の活動だ。

東北では、2007年から生田目教授とゼミの学生が中心となり、「東北福祉大学版」として翌年度のカレンダーを作成したのが始まりだった。ゼミ活動の枠では収まり切らず、今は東北支部として看板を掲げる国際ボランティアサークルにまで成長した。

学生たちが企画やコンセプトを考え、各界の著名人に印象深い作品の選出と感想をいただく。できあがったカレンダーはインターネットで販売するほか、仙台市中心部の百貨店前で街頭販売し、毎年収益を寄付している。

東日本大震災のあった2011年には「頑張っている人たちを、つなぎたい」という学生の意思から、被災した人々に絵を選んでもらい「震災復興版」を制作した。2015年の夏には、高校の文化祭で原画の展示を行うなど、着実に活動の場を広げてきた。

地球規模の問題に触れ、広い視野を育む

生田目教授は「国家間の紛争という大きなものだったり、社会主義から資本主義への進行による歪みだったり、父や母に置いて行かれたという個人レベルだったり…いろいろな要因がある」と、ストリートチルドレンが生まれる背景を説明する。

「ストリートチルドレン芸術祭」にとどまらず、共同研究の一環で毎年、学生を引き連れベトナムを訪問。「理論を教えるだけじゃ、説得力がないから」と、ベトナム戦争での枯れ葉剤被害者を支援する活動も継続している。このグローバルな志向は、どのように生まれてきたのか。 

海を渡る夢…そして米国へ

「小学生の時から、甲子園をテレビで観てスコアブックをつけていた」という、根っからの野球少年。地元仙台の高校では硬式野球部で外野手としてプレーし、やはり甲子園を目指した。ひとつの夢が終わると、東京の大学に進学し、社会学を専攻した。「国際関係に興味があった。当時はジャーナリストになりたかったなあ」。海を渡り歩く仕事が、夢に変わった。

挫折も拍車をかけていた。「学生時代、得意だったと思っていた英語が、留学生相手に全く通用しない。今まで(学校で)やってきたのは何だったんだ、いつか海外にいかなきゃ、と思いました」。大学卒業後は、現在でいうIT企業へ。国外に赴任する機会があることが、就職先として選んだ理由のひとつだった。

ところが海外赴任を待ちきれず、およそ2年で退職。留学の機会を探しながら1年後の1990年、米ウィスコンシン州にインターンの日本語教師として赴任する。これが、現在の研究につながる決定的な機会をもたらす。 

何も知らなかった自分を恥じて

在米中のある日のことだった。「日本について話してくれ」といわれ、投下された原爆のスライドを用意した。だが、伝えようとする話がうまく出ない。むしろ、教え子たちの方が知っていた。広島のことを。1945年に2歳で被ばく、白血病を発症した1年後の12歳で生涯を終える佐々木禎子さんと、千羽鶴に込められた願いの実話を。70年代後半から米国の小学校の多くで読み継がれてきた「サダコ・ストーリー」。当時の生田目青年は「その話を知らない、自分を恥じた」と、肩を落とすしかなかった。

そして時は、ペルシャ湾岸危機。油田の領有権争いから、クウェートに侵攻し制圧したイラク軍に対し、米国を中心とした多国籍軍が攻撃を開始、湾岸戦争が勃発する。兄がイラクに向かったという、教え子がいた。「(戦地に赴く)当事者を、身近に感じた。何で、戦争をするんだ」。日本にいては実感できない思いの数々が、国家間の戦略的安定や兵器の役割について学んでいく契機となった。 

研究テーマも、教え方も変わっていく

専門分野の概念は、集合体から個人と広義な意味を持つようになった。「格差や貧困といえば、世界の人口が70億人のうち、18億人が1日1.25ドル、4人に1人が1日150円程度で暮らさなきゃいけない、という状況もあります。日本でも現在、6人に1人の子どもが貧困ラインで生活している、といわれています」と、すぐそばにある危機に触れる。だから「一人ひとりを、どう守るか。もっと人間の安全保障の分野に近づいていきたい」と研究への意気込みを語る。

自身のテーマが変化や広がりを見せるのと同じく、学生への授業も「毎年変わっていく」という。3年生のある日のゼミでは、卒業論文の練習として「資料→調査→討論→まとめ→発表といった流れでの授業を繰り返した。学生たちは貧困や飢餓、格差などの事例を調べ、グループ討論で問題と解決法をまとめ、発表する。

2年生のゼミでは「自由な発想は本来豊かなもの。それを取りこぼさないように」と、自分への考察としてマインドマップを書かせる。インターネット、スマートフォンの普及で情報が氾濫する時代。情報の取得、インプットが容易になったからこそ、自分で処理をした上で「書くことが大事」とアウトプットに力を入れさせるようになった。

「大学生は学習力だけじゃなく、社会人となる基礎力を身につけなきゃいけない。問題を発見して解決する能力を身につけよう、と。その力をつける手段として、授業で国際関係を扱っています。(自分の立ち位置だけにこだわらない)大きな視点があれば『貧困、格差って何で起きるんだ』と思える。国家レベルやローカルレベル、いろんな角度、視点からものを観ることが大事なんです」。

トレードマークの囲みヒゲは、日本を飛び出そうと会社を辞めた20数年前からたくわえた。ミサイル防衛から貧困、格差、福祉に及ぶ領域への展開。変わらないのは、その風貌だけだ。 

生田目 学文(なまため のりふみ)

教員業績

職階
教授

研究分野
国際政治学、安全保障学、国際関係論

担当教科
情報福祉マネジメント論、情報社会学、国際政治論、アジア共同体に向けて、等

研究内容
国際政治学の安全保障分野の理論研究で学位を取得しました。核軍縮・軍備管理の理論研究を続ける一方で、世界のストリートチルドレンやベトナム戦争の枯れ葉剤被害者への支援活動など国際福祉・人間の安全保障分野で実践を行っています。私なりの理論と実践「行学一如」を目指しています。

ゼミ紹介
ゼミでは「グローバリゼーションの研究」と題し、国際(global)国内(national)地域(local)と、さまざまな視点から問題発見し、問題について対立するさまざまな立場からの考察を行い、これらを俯瞰し総合的な視座から問題解決ができる人材育成に努めています。

高校生に向けて一言
社会に存在するさまざまな問題は複雑で理解しにくいものばかりですが、いずれも解決しなくてはならない重要なものです。その中で自分が関心のある問題に取り組み、これを紐解き、理解していく過程で「学ぶ」ことが楽しくなっていくはずです。大学生活はゼミや講義はもとより、サークル活動、ボランティア、アルバイト等すべてが学びの場です。わくわくする学びの場に飛び込んでいきましょう。

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