【教員クローズアップ】関川伸哉 教授

環境から人を支える—福祉の根幹へ 〜高齢者向け次世代型車いすを共同開発〜

福祉って、何だろう

現場の課題解決に力を注ぐ関川教授は 「課題の発見は未来の可能性」と語る
福祉の仕事、と聞いて何をイメージするだろうか。多くの人が思い浮かべる光景が、高齢者福祉施設での介護の様子かもしれない。だが、本学で教鞭をとり、学生らと研究を進める関川教授は「高齢者を支える方法は、いろいろある」と強調する。「『身体適合』が専門中の専門」という同教授のアプローチは「環境から人の生活を支える」。それは、福祉の仕事の根幹のひとつだという。 

革新的車いすの完成

関川教授と地元企業で共同開発された 「高齢者福祉施設特化型車いす PS−1
「環境が変われば、人の生活は変わるんです」。それを証明するのが、関川教授らと地元仙台の企業で共同開発され、2014年度グッドデザイン賞を受賞した「高齢者福祉施設特化型車いす PSー1」だ。ビビッドなカラーのシートに、丸みを帯びたフォルム。どこか“コワモテ”だった既存の高齢者向け車いすとは明らかに異なる。

デザインもさることながら、本領は機能性だ。主流の折りたたみ式にはない各部の調整機能が、使用者の体にフィットさせることを可能にし、正しい姿勢での座り方をサポートする。体に合う車いすは、高齢者福祉施設で使用する方たちを明るく変えた。車いすの大きさを持て余し、もたれてたたずむような疲弊した姿は消えた。

からだの一部になって

車いす上での安定した姿勢
PSー1は10年以上に及ぶ、現場での実践と研究が反映されている。関川教授らの調査では、高齢者福祉施設利用者の約8割が車いすを日常的に使い、平均利用時間は実に約8時間。生活に必要不可欠な道具となる車いすは、まさに“環境”といえる。だが、既存の画一化された車いすが体に合わず「無理やり座らされている」状態が、利用者の体力を奪っていた。

「背中の形状に合わせることと、漕ぎやすいようにすること」を念頭に、体に負担の少ない姿勢の保持を考えた。S、M、Lなど定型サイズはつくらなかった。300人を超える高齢者の体格を計測、身長の大小や痩せ型・肥満型などの体型のみならず、足や胴の長さやおしりなど各部位のサイズも個人差が大きく、折りたたみの車いすにはない調整機能が必要不可欠と結論付けたからだ。

「7割以上の方が足を動かすことが可能だった」との調査結果からフットサポート(足置き)も車いすの奥にしまい込めるようにし、両足を床にしっかりつけられるようにした。すると、前のめりの転倒は大きく減った。自ら足を動かし、移動する人も現れた。体に合った車いすは、体の一部になった。 

車いすはメガネと同じだ

関川教授は「車いすをはじめとした福祉用具は、メガネと同じなんです。合わないメガネを使用すれば、頭痛や肩こりを招く。車いすも同じです。車いすに人の体を合わせるのではなく、一人ひとりの状態を踏まえて『人に車いすを合わせる』ことが大切です。(色やデザインの)好みを考慮し、身体寸法・機能を計測・評価し(メガネの場合、視力測定)、最後に微調整を行う。そうすることで、初めて一人ひとりに適合した、生活を支える便利な道具となります」と説明する。

なるほど、度の合わないメガネを誰が使うだろうか。 
高齢者の体型の違いと車いす3ヶ所(座面幅、座面高、肘掛け高)のサイズ(一例の表示)

19歳の衝撃

既存の車いすでは正しい姿勢を 保つことができなかった高齢者の方々の様子
仙台で生まれ育った関川教授は、高校卒業後にふるさとを離れ、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院に入学。義肢装具をはじめとした福祉用具の身体適合について学ぶ中、体に合わない義足を装着している切断者(足を失った人)を見た。「(当時は)義足に足を合わせる時代が続いていた。血を流しながら義足を用いる方もいました。障害を持つ人々は先端技術の恩恵を受けていないんだ、と思いました」。19歳のときに抱いた思いから、大学・大学院に進学。生体力学、リハビリテーション医学を学んだ。

東北福祉大にやってきたのは2000年4月。「福祉大に来て、初めて高齢者福祉施設で生活する方々に接して、19歳のときと同じ衝撃を受けた」と振り返る。訪れる先々で見た車いすは、人のサイズに合っていない。むしろ、車いすのサイズに人が合わせている。当時、子どもや成人には適合した車いすがすでに開発・普及されている中、高齢者だけが置き去りにされていた形だった。 

一人では、完成しない

多くの人と協力し改良を重ねた「PS−1」
現場での問題を提起しても「車いすなんて、どれも同じだよ」という空気もあった。加えて、時間がない、予算がない、できない…の「ないないづくし」。根底にはサポートする側にも、される側にも「どうせ変わらない」という心のバリアがあるとも感じた。それが、高齢者の周辺と心の中の“環境”を悪くしているのでは、とも思った。「一人ひとりに合わせることをしよう」。現場の声を収集しては改良を重ねた。10台以上の試作を繰り返した。その結果のひとつが、人に適合する車いす「PSー1」だった。

ただ、手がけた車いすは一人の技術や思考だけで完成できたと思っていない。「私に車いすをつくる専門技術はありませんから。自分ができなくても、問題は解決できる。いろんな人と協力しながら問題を解決するんです」。高齢者福祉施設の方々、車いすを使う方々、地元の企業、大学関係者…連携し支え合い、高齢者の環境改善に関わったすべての人が福祉の仕事をしていると、同教授は言う。 

共に学び、共に解決したい

10年以上の研究が反映された 「PS−1」と関川教授
もともとは動作分析の専門家。車いすをつくる仕事をするなんて、考えてもいなかった。そんな関川教授を支えたのは、切断者歩行の研究をしていた大学院時代、恩師にかけられた言葉だ。「君の研究は地味だね。でも人間の足と同じ義足ができたら、宇宙にロケットを飛ばすことより価値があることだ」。

今は義足でなく、高齢者の足となる車いすの革新を図る。胸にあるのは、19歳で受けた衝撃と学生時代に出会った恩師の言葉。だから、若い力と可能性を信じている。「人々の生活の中でどんな課題が生じているか、気づいてほしい。課題の発見が未来の可能性なんです。あらゆる分野の中で見つけて、19歳のときに僕が思った同じ思いを感じてほしい。そして『なぜ』と理に問うこと。課題をどうやったら解決できるかを考え、一緒に解決していけたら」と本学の学生や、これから福祉の分野を学ぼうとする学生のみなさんに語りかける。 

東北から“気圧配置”を変える

PSー1は製品化されたが「まだまだです。今度は在宅の方を支える『PSー1ホームエディション』を考えています。究極は『伊達(だて)車いす』。ファッション的な、伊達メガネのように。車いすもそういうふうになれば、社会的バリアも外れるかなと思います」。

多くの技術やその流行は、東京や関西を中心に始まれば、約5年遅れで東北にやってくるという。「天気じゃありませんが、西高東低ですね。東北の車いすが一番進んでいる、といわれたい。そういう願いを持つ若い方々を増やしていきたい。あとは実践。思っているだけではダメなんです。私にとって(課題の発見と解決への実践を繰り返す)現場は、最高の教科書です」。理に問い、行動する。結果を検証し続け、多くの人とともに形にする。そして世の中の“気圧配置”を変える——そんな意気込みがある。 

関川 伸哉(せきかわ しんや)

教員業績

職階
教授

研究分野
適合支援、姿勢保持

担当教科
福祉用具を用いた生活支援、総合リハビリテーション、等

研究内容
研究テーマは、福祉用具を用いた生活支援。専門は、バイオメカニクス、適合支援。医学、工学、社会福祉学などを総合的に理解し、「ヒトを知りヒトを支える」をテーマに教育・研究を行っています。

ゼミ紹介
ゼミは、福祉・医療に関する分野を中心に実施します。過去の実施内容例:評価法(認知、QOL、ADL)の導入と課題。高齢に伴う身体機能の変化。支援機器を用いた認知症高齢者の生活支援等について学習しました。

高校生に向けて一言
社会福祉は、我々の生活に欠かすことのできない重要な理念、目的、方法です。しかし、「福祉とは?」と聞かれて明確な回答が行えない人が多いのも事実です。社会福祉の仕事は、生活課題へのアプローチです。

この記事に関するお問い合わせ

総務部広報課
住所:〒981-8522 宮城県仙台市青葉区国見1−8−1
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