【教員クローズアップ】田邊素子 准教授

研究と教育を、医療現場と母の視点から 〜育みの苦しみを究明しながら、人を育む理学療法士〜

キビしい!?指導の理由は

「学生からみると、厳しいと思います(笑い)」。講義での指導をそう自己評価する田邊准教授は、リハビリテーション学科ができた2008年から、理学療法士(PT、Physical Therapist)を育む役割を担う。厳しさの理由は、「2年生では臨床実習があり、医療施設に赴き患者さんに実際に触れる形で、検査・測定を行います。学生でありながらも病院スタッフに準じた振る舞いができないといけない」と明確だ。

同学科には医療職に就きたい、とはっきり目標を考えて入学してきた学生がほとんどである。早期の実習では、19歳で医療の現場へ出て行くことになる。

学生気分じゃ、いられない

医療現場にいる患者の方からすれば、医師や看護師も、実習生でも肩書は関係なく、みな白衣を着た職員に見える。「実習中は、遅刻厳禁、提出物の期限遵守はもちろんのこと、医療面接における話し方や接遇、マナー等…医療に携わるという志望動機を持っていても、表出する態度が高校生のままでは、医療現場に相応しくない場面もあります。学内にいるうちに、実習学生としての基本的な態度面を厳しく鍛えていかなかれば…」。

4年生の臨床実習で「代表的な疾患の症例が診られるように」と治療プログラムの作成、治療効果の判定を目指した育成を行っている。同時に、教育のひとつとして大切にしているのが、社会の一員としての、当たり前の振る舞い。理学療法士として、長らく病院勤務をしてきた経験がそうさせる。 

理学療法士から、脳の研究へ

親戚にも医療関係者がいたことや、親にも勧められていたことから」と、医療従事者への道を選んだ。就職した病院では、脳卒中患者のリハビリテーションに関わる機会が多かった。「脳卒中の後遺症による片麻痺で、体を動かすことができない状態から、起きて立って歩けるようになる」。そんな回復の様子を間近で見るにつれて、骨関節や筋肉などの身体機能だけではなく、ヒトの脳機能へ強く関心を持つようになった。

医療現場で抱いた思いが、今の研究へとつながっている。教育学部・庭野賀津子教授との共同研究である、「乳児の表情に対する成人の脳活動」だ。

研究を始めて5年、現在はノーベル賞候補の小川誠二特任教授をリーダーとする、fMRI(機能的磁気共鳴映像法)を用いた研究プロジェクトの一員として、このテーマを追求する。今まではNIRS(ニルス、近赤外線分光法)で脳表面(大脳皮質)の活動を見てきたが、今後はfMRIを用いることにより、脳の深部の活動を見ることができるという。 

子育ての経験を踏まえて

研究では、赤ちゃんの泣き顔やほほえみなど、異なる表情を見せながら、被験者の脳の活動を測定してきた。「表情の違いに、脳の反応差が得にくい人は、赤ちゃんの情動を捉えにくいため、育児行動につながりにくいのではないか」との推測がある。子育てに重要な愛着と関係する脳の神経回路の反応部分を見て、その傾向を探っている。

テーマには、育児への悩みを持つ女性を支援することで、辛さを和らげたいという思いが内包する。自身も、仕事と育児の両立に苦労してきた。現在は小学生となった、二人の子どもの母。まだ二人が生まれる前や幼い頃は、夫の仕事の多忙さから、子育ては自分が中心にならなければという自覚はあった。 

育児への不安を取り除くために

出産直後は、つき詰まってはいけない、と頭では分かっていても不安な時もありました。復職後、子どもが保育園に行くようになってからは、子どもの体調不良により、仕事の早退、休むこともありました」。

育児の大変さや辛さを、身をもって知った。「イクメン」という言葉ができた今日でも、育児で実際に動くのは、多くの家庭では女性が主たる役割を果たす。だからこそ、研究を通して、育児の手助けとなる支援プログラムのための基礎を構築したいー。

「脳の研究をすることで、育児支援として手を差しのべないといけない人へサインを見つけ、援助の材料となるもの出せればと考えます。傾向が見つかれば、子どもを持つ前から支援できる。事前に自身の傾向が分かっていれば、将来的な育児へのバックアップ体制づくりなど、準備・対策ができると思います。そして、子どもと触れる経験を通して、『かわいい』と思うように変化していけば、子育てもうまくいくのではないか」と、成果を残すことに力を注ぐ。 

心が生む腰痛の解明も

また2015年からは、慢性腰痛の研究にも取りかかった。これも、多くの人たちが抱える悩みだ。「神経を圧迫しているといった身体構造の要因から治療や手術を行う患者さんがいます。しかし、神経を圧迫していないのに痛いというケースもあります。ひとつは心理的要因の影響、そしてふたつ目は一度痛いと感じたイメージや経験が影響するのでは、と考えられています」と語る。腰部の画像から、脊髄に大きな異常がみられなくても、腰痛を訴え続ける人は少なくないという。

「慢性化する人は(心理的に)何かのきっかけがある。痛みが長引くのは、ストレスを抱えている人がなりやすいといわれています。心理社会的要因といわれるものです。現在はそこへの対応・方法がまだ確立していない。脳の活動やパーソナリティを調べて、慢性腰痛に影響する因子を解明するための評価をいろんな角度から行っていきたい」。身体に表れる苦しみの要因を、こちらも脳と心からつきとめ、方策を立てようとしている。 

患者さんの人生を考えられるように

自ら「厳しい」といっていた講義。でも実際は、和やかに進めていく。学生を見つめる、その目は優しい。いずれは彼らも現場で、重い障害を抱える人たちに出会うことがあるだろう。「患者さんの人生の再構築ができる、残りの人生をどう生きていくかを考えられる理学療法士になって欲しい」。

身体、そして脳と心がテーマの研究にいそしみながら、医療の仕事を志すものたちに、心を伝えていく。 

田邊 素子(たなべ もとこ)

教員業績

職階
准教授

研究分野
リハビリテーション科学・福祉工学、理学療法学

担当教科
神経系理学療法学、解剖学実習、日常生活活動、等

研究内容
地域在住の高齢者の身体機能、介護予防ケアマネジメントに関わる専門職のコミュニケーションスキルに関する研究で学位をとりました。現在は、乳児の表情認知時の成人の脳活動、慢性腰痛に関する研究を行っています。理学療法学生への教育効果検証、震災に関連した研究活動も行っています。

ゼミ紹介
リハビリテーション学科の3・4年から行っている小人数指導では、臨床実習を念頭に、脳卒中に代表される神経系障害に関わる理学療法を中心にきめ細かく知識・技術が身に着くよう指導しています。

高校生に向けて一言
医療職はやりがいのある仕事です。退院した担当患者さんの笑顔をみると本当に良かったと思えます。臨床現場での経験を生かし、研究で探究心を発揮し、保健・医療・福祉への貢献という可能性をもっています。5年後、10年後の自分の姿を思い描き有意義な大学生活を過ごして欲しいと思います。


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