【シリーズ・東北】
東北の食文化
東日本,特に東北地方の味付けは,西日本に比べて「濃い」といわれます。味付けが「濃い」ということは,料理に使われる塩分濃度が高いことを意味しており,地域別塩分摂取量を見ると,「東高西低」が日本の食文化の常識となっています。しかし実際には,厚生労働省が実施した「国民栄養調査」によると,東北日本に対して西南日本は南九州を中心に塩分と甘さの両方の相対的「濃さ」を求める「塩甘さ」嗜好とともに,たっぷりだしのきいた濃厚さ,いわば「こく」嗜好の強いことが知られています。「豚骨味」がその代表です。すなわち,近畿を底に,西は中国から九州にかけて「塩甘さ」,一方,東は関東,北陸から東北にかけて「塩辛さ」嗜好が高くなります。
東北で塩分摂取量が高いことの理由として,気候が寒冷であることが大きく影響しています。寒い東北地方に住む人々は,塩分を摂取することで体温を維持してきました。また,冷蔵技術が発達している現代では大分様子が変わりましたが,1年の約3分の1が深い雪に覆われる東北に暮らす民にとって,収穫した食料を塩蔵して保存することは生きていくための1つの知恵でした。「衣は一代,住は二代,食は三代」といわれ,味覚は三代以上を経て変化するそうです。親から子へと代々味覚が継承され,現在の東北の食文化が形成されました。
しかし,高い塩分摂取量は「高血圧」という,いわば風土病をもたらしました。現代医学により解明されるまでの長い間,東北地方には「あだりまき」という方言があり,「あだり」は「当たり」,「まき」は「血統」という意味で,東北では脳卒中は予防の出来ない運命的なものと考えられてきたのです。近年,健康志向から減塩運動が効果をあげ,東北地方の塩分摂取量の平均値は年々減少しています。しかし一方で,元々塩分摂取量が少なかった近畿地方をはじめとする,首都圏以西の地方では塩分摂取量が増加しています。このことは,私達の味覚が都市化,利便化・コンビニ至上主義によって平均化していることを表しています。
「朱に染まれば赤くなる」という諺があります。「濃い」と「薄い」が混ざれば,「濃い」ものは「薄く」,「薄い」ものは「濃く」なり,中間の濃度に中和されます。出張先でご当地土産の菓子を選んでいると,名称やパッケージが別でも,中身は別の地方の商品と殆ど変わらないものをよく見かけ,味覚の平均化の原因の一つとなっています。また,西日本に出張してコンビニエンス・ストアで弁当を買うことがありますが,普段仙台で食べている弁当と味の違いは分かりません。風土に根ざした味覚が失われようとしています。
行過ぎた減塩運動によって日本人の塩分摂取が不足し,日本人の低体温化が進行しているそうです。1度の体温低下で免疫力が30%以上低下し,がん細胞も35度の体温で最も増殖することから,低体温化(=塩分不足)は種種の病気の温床であると警鐘を鳴らす医師もいます。
野菜や果物に含まれているカリウムと塩分のナトリウムは拮抗性原理にあることが知られています。要はしっかり野菜を取ることが大切です。
スクーリングや科目修了試験の際に,学生同士それぞれの珍しい郷土料理について披露し合ってはいかがでしょう。普段何気なく食べている料理でも,他の地方の人にとっては驚きに値する隠れた一品が見つかるかもしれません。
(Y.O)
参考文献
加藤純一 『食を探る』,知のWebマガジン,
http://www.shiojigyo.com/en/backnumber/0311/main2.cfm