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VOL.67 APRIL 2010

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教員MESSAGE [社会福祉学科]
社会福祉を学ぶ人へ

教授 三浦 剛

「奇想天外はよいが荒唐無稽はいけない」

 これは私が大学に職を得たとき,恩師から教えられた研究に対する姿勢です。奇想天外というのはオリジナリティ,独創性のこと。荒唐無稽とはとりとめのなくよりどころのないこと,でたらめのことです。「奇想天外はよいが荒唐無稽はいけない」とは,研究には他の人が思いもよらないような優れた気づきが必要だが,それが「よりどころのない」思いつきではいけないという教えだと思います。ここでいう「よりどころ」とは理論と言い換えてもよいでしょう。
 社会福祉学は複雑に絡み合う社会的事象を相手に,これまでの多くの実践の上に積み上げられてきた知の集成だということができます。医学や心理学などの近接領域と比べればその歴史は浅く,まだ学問としての体系化は不十分だといわれることもあります。しかしリッチモンド以来100年近く,理論化,体系化への試みは少しずつ実を結んできています。
 社会福祉を学ぶ理由として社会福祉士という専門職資格を得ることを挙げる人は多いと思います。資格取得には現行の支援制度や方法などを学ぶことが多く求められますが,ここに至るまでどのような歴史と価値観の変遷の中で社会福祉学は展開してきたのか,今日到達した理論にはどのようなものがあり,その方向はどこに向かうのか。まずしっかりとした理論学習が必要だと思います。
 社会福祉を学ぶ体系として,社会福祉原論,そして指定科目から外れてしまいましたが理論史を含む社会福祉発達史,昔は方法原論といった社会福祉援助技術論などの基盤となる科目の学習がまず必要で,その上に障害や児童などの分野論,技術(各)論の学習があり,そしてそのまた上に演習や実習による技術の習得のための科目があります。このような体系をしっかり意識して,単に現行の法制度や知識を暗記したり,支援技術を身につけようとするのではなく,社会福祉の基礎的な理論をしっかりと理解するまで学んでいただきたいと思います。

「私は20年この施設で働いている。利用者のことはよくわかっているし,支援技術も身についている」

 私も20数年社会福祉教育の仕事をしてきて,通信教育のスクーリングや現任研修の仕事の中でこのようにおっしゃる方と何回も出会いました。ある知的障害者福祉施設での研修の場で,このようなベテランの支援員が提出した検討事例に,新卒の若手支援員が疑問を呈したことがあります。
 「先輩の指示によってたしかにこの方は作業に戻ることはできましたが,それは本当にご本人が望んだことなのでしょうか?」
 「この利用者は作業をしていたほうが落ち着くんだ。早く作業に戻してあげることがいいのだ」
 この議論は一見水掛け論で決着がつかないようにみえますが,そうではありません。たしかにこの利用者さんは作業をしていたほうが落ち着いて過ごせるのかもしれません。そのほうが支援側にとっても都合はよいでしょう。しかしそうすることが,何らかの理由で自分の意思に基づいて作業場を離れた利用者さんの気持ちを本当に汲んだ支援といえるのでしょうか。徹底的に利用者の立場に立ち,その権利を擁護するという姿勢からすれば,このベテランの支援は一方的過ぎます。たとえ結果は同じであっても,まずこの利用者さんの意思を考える,利用者の意思の代弁者として支援を行うという態度が欠けているのです。
 このような姿勢,態度は知識や技術だけを学ぶことによって身につくものではありません。ましてやただ経験を重ねれば身につくものでもありません。逆に経験によって「そうに違いない」という思い込みをしてしまう危険があります。大切なことはこの場合,徹底的に利用者の立場に立つという「利用者本位」という専門的価値観をどこまで自分のものとして持てるかということでしょう。ともすれば知識や技術の習得に目がいきがちですが,それらはすべて専門的価値,倫理の上に初めて成り立つものなのです。このような価値や倫理の上にない知識や技術は砂上の楼閣,空虚なものといわざるを得ないでしょう。
 社会福祉の価値,倫理観はどのような変遷を経て今日あるのか,また個人的な価値観と専門的価値観のジレンマはどのように乗り越えていかなくてはならないのかなど,先に述べた社会福祉原論や社会福祉発達史,方法原論(社会福祉援助技術論)などの学習のみならず社会福祉援助技術演習や実習という学習の場でも常にこの階層性を意識して学び,実践者としての自分という道具を磨いていく必要があります。

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