【BOOK GUIDE】
ブラックジャックによろしく9〜13(精神科編) 講談社
研修医・斉藤君が病院のいろいろな科をまわって医療のオモテとウラを見ながら成長していくさまを描いた『ブラックジャックによろしく』(マンガです)。2年前にはドラマ化もされたので,タイトルはご存知の方も多いと思います。その9〜13巻は精神科編です。
斉藤君がまず出会うのは,「あなたは精神病患者を差別しますか?」「弱くてかわいそうな患者達を正義の味方の自分が守ってあげている……その感覚こそが差別と呼ばれているものなのですよ」という問いです。その問いをつきつけられて後,患者や家族や指導医の一言一言に考えを深めていく様子は,精神保健福祉の実習に行かれた方も味わわれたのでしょうか。
心を許した患者さんの「先生,僕頑張ったんです……学校も真面目に通いました……就職活動だって一生懸命やったんです……どうしてこんな事になってしまったんでしょうか……?」という語りにどう応えていけばいいのか,というのも,実習生としてはとまどってしまうのではないでしょうか。
さらに,このマンガでは大阪教育大学附属小学校事件と思われる児童殺傷事件で「精神科への通院歴」が大きく報道されたことが,患者や家族,関係者にどれだけ影響を与えたかについてもひとつのテーマとして描かれています。実際には,犯人がすでに死刑になっていることからもわかるように,犯罪は精神病が原因で起こったことではない,と裁判で判断されています(犯罪が精神病が原因で起こったと判断されれば,刑法39条の規定により死刑になることはないからです)。また,精神障害者がそうでない人より犯罪の割合が多いということは,統計的にまったくありません。にもかかわらず,「精神病患者が危険」という偏見があること,マスコミが犯罪と「精神科への通院歴」を関連があるように報道することの無意味さや,「つくられる精神病」という側面にも言及しています。
また,社会的入院の問題もとりあげられています。指導医のことば「私はただ淡々と患者を治療し退院させます……日本の精神病院には本来入院の必要がないのに入院している人がおよそ40万人います……家族の元にすら居場所がなく病院にいるしかない人が40万人もいるのです……私は1人1人を退院させていきます……仮に彼らがホームレスになろうと……それは社会の問題だと思いませんか」。精神保健福祉のしごとの意味のひとつがここに隠されているような気がします。
■佐藤秀峰著 『ブラックジャックによろしく』(9〜13 精神科編) 講談社モーニングKC,2004〜2006年 定価各巻560円
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