社会的・職業能力育成プログラムに資する認知・脳科学的エビデンス情報提供基盤の構築

fMRIとは

fMRIとは

図1
1990年代は脳の10年と呼ばれて、脳科学のいろいろな分野で多大な進展がみられました。特に、機能的脳活動の画像化の発展ぶりには目をみはるものがあり、その中で、脳を対象にしたfMRIは発展の主動力になりました。fMRIの応用は医学・神経科学から心理学、さらに社会科学のいろいろな分野にも及んでいます。

普通のMRIは病院で使われているように、脳の構造を非侵襲的に測る最も優れた方法として知られています。fMRIはMRIのもたらす構造情報の上に、脳の機能活動がどの部位で起きたかを画像化するものです(図1)。在来、脳の神経活動で起きる電気磁気現象をMRIで直接検出するのが大変難しく、脳機能をMRIで測ることは不可能とされてきました。ところが、MRIの信号には小さいながら、脳の生理現象の変化と共に変わる成分があり、それが脳機能活動と関連した信号変化として捉えられることが示されました(小川 他、1990、1992年)。これがfMRIの始まりでBOLD法と名づけられています*。 

*S. Ogawa, T. M. Lee, A. R. Kay and D. W. Tank, "Brain Magnetic Resonance Imaging with Contrast Dependent on Blood Oxygenation", Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 87, 9868-9872 (1990)
S. Ogawa, D. W. Tank, R. Menon, J. M. Ellermann, S.-G. Kim, H. Merkle and K. Ugurbil, "Intrinsic Signal Changes Accompanying Sensory Stimulation: Functional Brain Mapping With Magnetic Resonance Imaging" Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 89, 5951-5955 (1992).

自然からの贈り物

fMRIのような機能的脳活動の画像化にとって、自然は2つのとても都合の良い状況をつくってくれています。それらの大体の様子は100年も前から知られていることですが、その一つは、脳が種々の機能的特性をもった多くの部位にはっきり分けられていることで、もし、機能活動が脳の広い分野全体を通して空間区分なしに起きているのであれば、画像化の意味はなくなります。勿論、脳は与えられた課題を処理するために多くの機能部位を動員し、脳内に適当なネットワークを組んで働いている筈です。

第2の状況は、脳内のいろいろな所で機能活動が起きると、その神経活動に付随して血流や代謝が増加し、しかもその変化は神経活動の起きた部位と空間的にほぼ合致していると言うことです。基になる神経活動に大変強く連結して起きるこの付随反応のお陰で、脳の多くの領域でおきる機能活動をMRIによって追跡出来るわけです。これら2つの状況どちらかでもが欠ければ、fMRIの存在の意味を失います。

ボールド効果とは

図2
MRIで使うような強い均一な磁場内に磁化率の異なるものが置かれるとそのものの内部及び周りに磁場の変化・歪を生じます。電磁気の教科書にある図ですが、円筒状のものが均一磁場内に置かれたときの磁場の様子を示しています。

このような現象が脳組織内でも起きることを示したのが図2です。組織には酸素を供給すべく多くの血管網がはりめぐらされています。血液は小さな動脈から毛細管を通って静脈に達します。血液中の赤血球には酸素を運ぶヘモグロビンが多量にあります。このヘモグロビンは酸素分子を結合している時には反磁性で、毛細管で酸素を放出した後(デオキシヘモグロビン)では常磁性になります。常磁性体であるデオキシヘモグロビンを多く持つ静脈側の血管の中及び周りには僅かながら磁場の歪をつくります。この歪の存在はそのあたりの水(のプロトン)の信号(MRIはこの水を対象にした磁気共鳴現象を測るものです)を弱めます。この現象をBOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)効果と呼びました。

更に、脳の機能活動として神経細胞の周りのシナップス活動が増加しますと、そばに存在するアストロサイト(グリア細胞;神経細胞の働きを補助)やニューロンが感知して血管を拡げる物質を血管の壁におくり、結果として血流の増加がおきます。この血流増加による酸素の供給は神経活動の増加に伴う酸素消費の増加を遥かに凌ぎ(過剰の酸素供給)ます。その結果、デオキヘモグロビンの量が減り、先に述べた磁場の歪の減少をもたらし、MRI信号が僅かに増えます。この信号変化が機能活動の増加に対応したものとして画像化されるのです、すなわちfMRIによる脳機能測定となります。

脳疾患診断などへの応用

約10年前から、与えられた課題を処理しない状態(安静状態)でも脳のfMRI信号の変化があること、そしてそれが脳の信号処理基盤と深く関連していることが確認されました。この安静時のfMRI信号計測は課題遂行時と比べてかなり容易であり、脳疾患診断の研究などに広く使われるようになりました。

安静時でのfMRI信号から脳疾患によっては特定の部位で健常者と患者間で信号強度の違いが見られます。アルツハイマー病(AD)の研究でも脳画像による研究が盛んになってきており、健常者と比べて患者で信号強度が弱くなっているところや(図3:後帯状皮質&楔前部)、また、幾つかの脳部位間でのfMRI信号のつながり(ネットワーク)が健常者と比べて弱くなっていることも分かっています(図4:楔前部と前頭前皮質内側部の機能的結合)。自閉症(Autism spectrum disorder: ASD)の場合でも、脳部位間のつながりが健常者と比べて患者で弱くなっていることが見られます。
図3(左)、図4(右)
図3(左)、図4(右)
さらに、fMRIの応用はヒトの社会性、職業適性など様々な個人的な特性を理解する分野へも広がっています。図5は視覚デザインのような職業適性に関連する脳のネットワークを示しています。fMRI信号からのネットワーク情報を用いることでヒトのその適性を評価することが出来ます。
図5
図5

機能的MRIの未来

非侵襲的かつ高空間分解度で脳の活動を画像化できる方法である機能的MRIは、脳の機能活動メカニズムの解明及びAI、医療、教育などの分野への応用がすすみ、特に7テスラ以上の高磁場MRI装置を利用すれば、さらに微細な構造上の機能活動の情報が得られ、期待はますます広がります。

この記事に関するお問い合わせ

感性福祉研究所
住所:〒989-3201 宮城県仙台市青葉区国見ケ丘6−149−1 国見ケ丘第1キャンパス
TEL:022-728-6000
FAX:022-728-6040
E-Mail:kannsei@tfu-mail.tfu.ac.jp