【シリーズ・現場実習】
精神病院で実習をして
社会福祉学科(通学課程)4年
阿部さん
今年6月に本学・通学課程で,精神保健福祉士受験資格取得に必要な「精神保健福祉援助実習」を終えられた阿部さんにお話をお伺いしました。
Q 体験学習以前に精神障害者と接した経験はありましたか。
A 2年生の夏と3年生の春に,地元(新潟県)の病院・施設の「見学」をさせてもらいました。依頼は「精神保健福祉士を希望する学生」である旨と見学のお願いの気持ちを込めて手紙を書き,着いたかなと思う頃に電話をして,OKのところに数カ所行きました。
Q はじめて病院や施設に行った際にはどんなことを感じましたか。
A 私は,精神障害者がこわいとかいう偏見は最初からあまりなかったし,見学や体験学習・実習を通じて患者さんと接する際もとまどいのようなものはあまりなかったです。病院や施設によって,明るいイメージのするところと,そうでないところの違いはあったように覚えています。
Q 入院されている方には,病状が悪い人もいると思うのですが……。
A 病状が悪くなると「隔離室」に入るようで,そこの方はドアをたたいたりしている方もいました。また,現実の世界と想像の世界が混乱しているのか「有名人と知り合いだ」とか「有名大学出身だ」とか言う人はいましたが,巻き込まれるようなことはなかったです。
Q 精神障害者ほど接したことのある人とそうでない人のイメージ差が大きいものはないですね。
A そうですね。入院歴のある人のなかで事件を起こす人はごくわずかなのに,マスコミ報道とかで偏見が助長されてしまうのでしょうか。
Q 体験学習先はどうやってみつけましたか。
A ガイダンス後3年生の6〜7月に地元の施設・病院に依頼しました。病院は「短期の実習は難しい」ということで断られたので,授産施設で10日間行いました。
Q 体験学習先ではどのようなことを経験しましたか。
A 授産施設なので,作業(炭石けんの袋詰め,ハンガーや洗濯ばさみづくり)やレクリエーションを通じて,メンバーさんとコミュニケーションをとりました。さらに,その施設では週1回「SST」(日常生活技能訓練)を行っていたので,参加させてもらいました。
Q SSTって何ですか?
A 毎週1回希望するメンバー約7人と職員2人(リーダー,コ・リーダー)が集まって,たとえば「初めて会う人に挨拶する」というような場面を設定して,役割を決めて演じる練習をするもの(ロールプレイング)です。コミュニケーション能力を高めることを目的に行っています。
演じる人たちを他の人たちがまわりで見ていて,あとで良かったところを述べあったりもします。効果があるということで,病院の医療保険の点数にもなっていて,よく行われているようです。
Q 通学課程では,3年次までにPSW取得に必要な全科目の単位修得済みが条件のようですが,これは大変でしたか。
A 先輩方から試験に関する情報をもらっている人もいたようでしたが,私は入手できず,講義中に話された内容と教科書を照らしあわせて,勉強しました。指定科目は落とせないので,とくに力を入れました。
Q 4年次の現場実習先はどこでしたか。
A 2年生のときに見学に行った地元の精神病院を希望し,そのとおり受け入れられたことが,3年生の冬に決まりました。
Q 実習準備はどのようなことをしましたか。
A 「事前学習の手引き」にもとづいて,病院の概要や関連する法律を調べたりするのですが,結構時間がかかりました。
「実習計画案」の作成にあたっては,これまでの見学や体験学習を通じてやりたいことがあったので,それを目的にしました。
Q 具体的に,実習の目的とはどういうものでしたっけ。
A まずは,(1)援助技術の理解です。ケースワークやグループワークについて,テキストで勉強したことを施設・病院の現状に合わせて,またメンバーのレベルに合わせて,実際にどうやって使っているのか,とても知りたかったです。
また,(2)自分がワーカーに向いているのかどうか,ということも確認したかったことのひとつです。
Q 実習に行かれた病院の入院患者さんはどんな方が多かったでしょうか。
A 統合失調症の方が多かったです。退院しても行く場所のない「社会的入院」の方も多いようでした。お金も仕事もない,というのが現状のようです。面会は多い方もまったくない方もいらっしゃいました。閉鎖病棟は病棟内のみ自由ですが,開放病棟は買い物に行ったりの外出も可能です。外泊する人もいます。
また,老人性療養病棟もあり,そこでは痴呆の方が入院されていました。
Q 実習でされたことを具体的に教えてください。
A 「病院」での「ケースワーク」の同席は,プライバシーの関係で数多くは難しかったのですが,たとえば入院患者さんの「お金がないので生活保護を受けたい。どうすればいいのか」というようなケースに答える事例がありました。
ワーカーさんは,福祉に関する基本知識のほかに,豆知識のようなものが必要だな,と感じました。
Q 豆知識って,具体的にはどんなものでしょうか。
A たとえばお金のことですが,多重債務者の患者さんに対して自己破産の仕方とか,クーリングオフの知識とかを知っておくことが必要だな,と思いました。
Q ほかの実習内容はいかがでしょうか。
A グループワークも経験させてもらいましたが,さきほどあげた「SST」に医師や看護師さんといっしょに参加しました。「個人個人に課題をもたせる」ということが必要になるようですが,長期目標はメンバーさんが独自に,短期目標はワーカーとメンバーさんが雑談しながら決めていくようでした。課題をもてない方には,ワーカーがその人の状態を把握して,設定しているようでした。
患者さんの病状を一番よく把握しているのは,病棟の看護師さんで,ワーカーも看護師さんから病状を聞いておくことが必要だと思いました。
また,あいた日は病棟に入って,患者さんと話しをしてすごしました。
さらに,非常に貴重な経験として,「コミュニティワーク」の実際にも携わることができました。
Q 具体的に携わられた「コミュニティワーク」って何ですか。
A 現在小規模作業所を運営している団体が,新たに「地域生活支援センター」をつくろうということになり,その会議に病院のワーカーさんといっしょに参加させてもらえたのです。他には,(1)保健所,(2)精神保健福祉センター,(3)他の病院,(4)他の授産施設のワーカーさんなどが参加している会議です。
そこで,病院としての要望を述べるわけですが,(1)退院後の受け皿となり,支援の拠点となるセンター,(2)24時間電話相談の実施,というようなことを出していくのです。
Q 参加してどういう印象を持ちましたか。
A 教科書ではなかなかイメージのわかない「コミュニティワーク」ですが,具体的に地域に働きかける,というのに立ち会えたのが,とても勉強になりました。また,そのための勉強という感じで,地域にある作業所に行かせてもらったりもしました。
退院後通院している患者さんについては,その方が退院後行かれている地域の作業所と情報交換を密にし,病気や薬のことは助言することも必要ではないか,と感じました,
Q 「地域との連携」は福祉の世界でよく耳にすることばですね。
A 授産施設のスタッフ会議に,病院のワーカーが出るということは実際に行われていました。退院患者さんの把握も必要ということです。
また,どこで働くにしても地域のさまざまな機能を理解しておくことが非常に重要だと感じました。
Q 実習で利用者と接してどんなことを感じましたか。
A 会話をしていてもふっと輪の中に入れないでいると感じることがありました。患者さん同士で話したいこともあるのでしょうが……。
また,一番困ったのは,「お前は病気ではないから,オレのことなんてわからないだろう」と言われたことです。あとでワーカーの方に気にしなくていい,と言われましたが……。
Q 職員の方と接して,どんなことを感じましたか。
A 実習担当のワーカーさんとは仲良くなれました。また,「作業療法士」の方にもよくしていただき,「ソフト・バレーボール」とかカラオケ大会とか寝たきりの人のリハビリテーションとかに参加させてもらいました。
Q 実習に行って,印象に残ったことは何でしょうか。
A 「コミュニティワーク」という,これまで目の向いていないことに目を向けさせてもらった,というのが一番大きい収穫でした。
また,何といっても「楽しかった!」という感想です。
Q これから国家試験ですが,どんな勉強をされていますか。
A 参考書を読んだり,模擬試験を受けたり,社会福祉士の友人から共通科目の情報をもらったり,とかで勉強しています。
長い時間お話しをいただいて,ありがとうございました。よいワーカーさんになれそうですね。