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VOL.24 DECEMBER 2004

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[関連施設紹介] 介護現場における専門性とは《その3》

医療法人社団東北福祉会 介護老人保健施設 せんだんの丘 副施設長
土井 勝幸

◆1 はじめに

 前号までに,看護・介護・リハビリテーション職の専門性について述べてきましたが,今号ではその他の生活支援に関わる職種について紹介します。せんだんの丘では,開設当初より歯科衛生士を常勤配置としました。当時としてどころか,5年目を迎えた現在でも常勤配置の施設は全国を見まわしてもほとんど存在していないのが実態です。ある意味,新しいケアサービスのあり方に関する挑戦であったといえるでしょう。そして,この歯科衛生士もまた,すべての職種が業務を共有することを原則としているせんだんの丘において,生活場面に密着する形で専門性を発揮し生活支援を行っています。そして見事に生活の中に口腔ケアの重要性を位置づける役割を果たすことができました。
 では,具体的にどのように生活場面で機能し,その取組みが一体何を生み出したのかを紹介します。

◆2 歯科衛生士の役割について

1)歯科衛生士を配置することの意味
 せんだんの丘には口腔ケア室がありそこには歯科診療台が設置されており,診療所と変わらぬ治療を利用者の方々に提供することができます。単独型の老人保健施設としてこのような環境を整えているのは全国的にも珍しい取組みになります。何故そのようにしたのか? それは人が生きていくうえで最低限必要な水や栄養分を取り込む入り口の環境を整えることが大切であると考えたこと,加えて,意思の疎通というコミュニケーション手段を最後まで確保したいとの思いからでした。両方に共通するのは“口腔機能”になり,前述した環境を整備することには必然性があったのです。さらに,治療として整えた口腔環境を“機能”として日常の生活の中で生かすためには日常のメンテナンスが重要になります。そのためには専門的な視点による日常の口腔ケア,機能再建のためのトレーニングを指導するコーディネーターが必要となり,歯科衛生士を常勤配置としたのです。

2)日常の口腔ケアの持つ意味
 口腔ケアとは,単に清潔を保つ目的ではなく,機能面をもケアするものであり,大きな楽しみである食事を問題なく美味しく摂取していただくことを支援することが目的となります。要するに,ごく当たり前に食べられる,飲み込める口を整えることが口腔ケアの意味になるわけです。
 清潔の保持という視点からは,口腔内細菌の取り込みによる感染症罹患率が高いことからも,欠かすことのできないケアであることは間違いありません。歯の残歯数,吻合具合,義歯の有無・状態等によりひとり一人にケアの方法は変わってきますが,歯科衛生士はこれらをコーディネートし,日常の生活に還元していきます。では,誰がケアを行うのか? 日常のケアに関わる職員になりますが,介護・看護・リハビリ職員など生活支援を行うすべての職種が行います。さらに,5年近くこの取組みを行って気付いたことは,座位を保てる方であれば,場面の設定により,利用者自身が主体的に口腔ケアに取り組むようになることです。これも自らが主体的に生き続ける力になる支援のあり方の一つです。これらの積み重ねは感性症の罹患率を著しく低い結果に導くという効果をもたらしました。

3)口腔ケアの積み重ねがもたらす効果
 口腔内の清潔を保持し続けるケアとは,口が意識化されることでもあり,義歯に違和感を持つ痴呆の方々にも根気強い関わりの中から多くの方が再度義歯の使用を開始します。それは,食事を安全においしく食べる機能をもたらし,さらには義歯の使用により顔貌が整う,発声しやすいなどコミュニケーション機能に作用し,笑顔が増えてきます。さらに,経管栄養の方の口腔内清拭の繰り返しは,残存している口腔運動機能の発見につながり,この発見を機能の賦活につなげるケアのチャレンジを生み,経口摂取の機能を取り戻す利用者を増やす結果を生むことになりました。そして感染症罹患率が低い結果は,より健康に生き続けたいという“生活と生命の保障”をもたらしていることになるのです。

◆3 ケアの質を受益者負担に置き換えていくことの意味

 これらの取り組みからいかに口腔ケアが大切であるかをご理解いただけたでしょうか。
 今振り返って見ますと,せんだんの丘では,これらの設備への環境投資や制度の基準にはない歯科衛生士の配置に関して,持ち出しのサービスをするほど財源の余裕はありませんでした。しかし,これらの投資は人が生きるうえで欠くことのできないものであると考え,経営的には苦しいながらも投資には躊躇しませんでした。
 現在では,口腔ケアへの取組みの積み重ねから,より質の高い生活支援を目的に,ご利用者の方々から“健康管理費”という名目で料金のご負担をいただく形へと切り替えました。一つ不安であったのは,ご家族の方々にご理解をいただけるのかどうかでした。しかし,その不安は全く心配の要らないものでした。口腔ケアの質の高さ,安心できる環境,そして何よりも生きる力を大切にしようとする取組みの姿勢にご理解を頂けるようになったのです。必要最小限のご負担であっても,無形に近い独自のサービスである“ケアの質”にお金をお支払いいただくという新しい形でもあります。
 これらのご負担金は,口腔ケア用品では,医療的な要素も踏まえた歯間ブラシ・歯ブラシ・吸引ブラシなどを多種多様に揃え,100名の入所者全員の個々の機能にあわせて使い分け,さらには一日3回全員の口腔ケアを実践できるまでに成長させてきました。また,歯科治療が適切に行われるように,診療ユニットの備品・消耗品の維持費等に充当し,いつでも最新の治療が受けられるようにも配慮できるなど,きちんと利用者の方々に還元できる財源として使用しています。
 持ち出しの福祉は必ず行き詰ってしまうことは明白であり,サービスを提供する側とそのサービスを利用する側が支えあう形で“質”を熟成させていくことがこれからの福祉サービスには求められるではないでしょうか。

◆4 口腔ケアと福祉について

 数年前になりますが,ある介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の施設長の方とお話をする場面がありました。その施設長さんは,私にこう話されたのです。「最近,口腔ケアをきちんとしていますという施設が出てきたけれど,それって本当に必要なケアなのだろうか? 大体年寄りに歯磨きの習慣がない方も沢山いたはずなのに,施設に入った途端に歯磨きを押し付けられるのはどうかと思う……」こんな主旨のお話でした。皆さんは,このお話をどのように感じますか?
 私たちの目の前に現れてしまった要介護高齢者は,悲しくも何らかの課題を持ってしまったから,私たちの支援を必要として存在しているのです。この課題に対する取組みを押し付けとして捉えるのか? 解決すべき,支援すべき課題として捉えるのか? 皆さんがもし福祉に携わる人間としてそこに存在したら,どちらをとるでしょうか?
 誤解を生まないように,説明をしておきますが,この施設長さんは口腔ケアを否定しているのではないのです。高齢者の方々が生きてきた生活環境や背景を大切にしてあげること,それが“その人らしさ”を支えるケアなのだとお話されているのです。この言葉の持つ意味はとても大きく,奥深いことだと素直に感じます。
 個人的には,どちらが正しいとか,間違っているとかを問うつもりはありません。ただ,私の母親には“せんだんの丘のケア”を受けさせてやりたいと切に願うのです。


■せんだんの館 12月1日オープン

 本学の関連社会福祉法人・東北福祉会が運営する特別養護老人ホーム「せんだんの館(やかた)」が青葉区水の森(みやぎ生協・桜ヶ丘店向かい)にオープンしました。全室個室・ユニットケアを特徴とする新型特養です(定員100名)。全室個室のショートステイ,デイサービスの施設も併設しています。
 また,入所者だけでなく地域の高齢者にもご利用いただける流水プール,その他カフェテリアなどもあり,地域に開かれたコミュニティセンターとしての機能ももちます。
 仙台市とフィンランド政府の共同プロジェクト「フィンランド健康福祉センター」も3月下旬に開設予定。フィンランドと日本国内の企業・大学が共同して健康福祉関連機器・サービスの研究開発(R&D)に取り組む拠点となるものです。

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