2021/05/14 情報福祉マネジメント学科

野外活動から私たちが得るものは… - 「ゆるキャン△」のもたらす気づきと発想 - 鈴田泰子准教授

教員の声<不定期更新>
学科の教育や活動について学科教員の視点でまとめて報告します。

あなたは「ゆるキャン△」って知っていますか?山梨県に住む女子高校生たちがゆる〜い野外活動をとおして、次第に成長する様子の描かれたコミックです※1。漫画家あfろ氏の描くこのコミックは、アニメやドラマも制作されて人気を博し、もはや「ゆるキャン」というアウトドア用語にも転化しています。そこで私も「ゆるキャン」してみたいと思い、NPO法人森の学校という野外活動サークルで大人や子どもと一緒にやってみたことがあります。キャンプ場にテントを張り、ピクニックシートを広げ、アウトドアチェアを並べます。参加した大人の一人は「実はこういうの(アウトドア活動)好きなんですよね〜」と嬉しそうに火を起こして、暖かい焚き火を始めました。アウトドア用のナイフを使ってネギを刻み、温かいうどんを作る人もいます。焚き火でこんがり焼いたマシュマロをほおばって「これめっちゃ好き〜」と笑い、その場を和ませる子どももいます。風の吹き抜ける広い広い自然の中では、みんな思い思いに活動できて、それぞれの役割を果たすことができるのです。
ふと足元を見ると、小学1年生の子どもが水辺に生えていたオナモミという植物の実をたくさん採ってきて、大きなカエデの葉っぱに乗せて集めていました。そのとき「あっ、これ、かけ算で数えられるかも知んない」と言いました。多量の物の個数を数えようとするとき、一つ、二つ、三つ…と数えていくより、行と列を作って整理し、行数と列数を掛け合わせれば全体数が求められるということを、この子どもが遊びの場で発見した瞬間でした。小学校の教室で学習した「かけ算」を、週末の余暇時間における「ゆるキャン」という活動の中で般化(generalization)させた場面とも言えますね。
私は感動のあまり、その子どもの様子をポカーンと口を開けたまま眺めていました。広いキャンプ場を吹き抜ける風に揺れて、カエデの葉がさわさわさわさわ…と絶え間なく音を奏で、時おり大きな葉っぱがひらり、ひらり、と飛んできます。それを一人の子どもが拾い上げて「これ、カナダの国旗のやつだ」と嬉しそうにつぶやきました。社会科で習う各国の地理も、野外活動で応用されるのですね。「ゆるキャン」という何気ないアウトドア体験が、人の感情や思考に働きかけてさまざまに作用する様子を、私は目の当たりにしたのでした。

ゴリラの専門家として名高い山極寿一氏は、哲学者である鷲田清一氏との対談において、学生たちには「山に行け」と教えていると述べています※2。不測の事態が次々と起こる野外では、常に身体感覚を研ぎ澄まして情報をキャッチし、危険を回避する手段を講じなければなりません。その体験が研究活動にもたいへん役立つというのです。私はこのくだりを読み返して「そうか、なるほど」と深く納得しました。「ゆるキャン」を実践してみて、目の前にいる子どもがアカデミック・スキルをライフ・スキルに転化させて行く様子を観察して確かめたのですから。この発見と納得もまた「山に行け」すなわち野外において得たものだと言えますよね。フィールドでの観察が机上の学びと結びついて新たな発見や確信をもたらすことを、私は身をもって学んだわけです。「ゆるキャン」…あなどれませんね。私の主宰する鈴田ゼミでは、さまざまな特性をもつ子どもたちの野外活動やグループ活動をとおして、コミュニケーション支援を展開する方法を実践的に学んでいます。あなたも、陽光のあふれる野外を歩いてみませんか。あなたという個体の内外に、何かを発見できるかも知れませんよ。

※1 あfろ『ゆるキャン△』第1巻〜第11巻,芳文社(2015〜2021)
※2 山極寿一・鷲田清一『都市と野生の思考』集英社インターナショナル(2017)

関連ページ

この記事に関するお問い合わせ

教務部教務課
住所:〒981-8522 宮城県仙台市青葉区国見1−8−1
TEL:022-717-3315
FAX:022-301-1280
E-Mail:kyomu@tfu.ac.jp