2022/02/28 教育学科 研究

研究報告:ソロンの裁判制度改革 (中等教育専攻:清宮 敏教授)

私は、前6世紀初頭のアテネでソロンが行ったとされる、裁判制度改革について研究しています。

ソロンと言えば、高校の世界史の教科書などでは、対立する貴族と民衆との間の調停者として、改革を行った人物として描かれています。家柄ではなく、財産額に従って市民の政治参加の度合いを定めたこと(財産政治)、市民を債務から解放して、以後その債務奴隷化を禁止したことが、2大改革として有名です。しかし、史料によれば、これら以外にも、彼はいろいろな改革に着手したと伝えられています。その中の1つとして、裁判制度の改革があります。通説によれば、それまでは貴族である役人が裁判権を独占していたのに対して、ソロンはある種の訴訟に関しては市民の総会である民会での裁判を義務化し、それによって民衆に一定の裁判権を委譲した、この民会裁判が、古典期(前5世紀~前4世紀)に発展を遂げたアテネの民衆裁判所の原型になった、ということになります。彼による裁判制度の改革は、他の改革とともに、やはり古典期に開花することになる、アテネの民主政治への一歩と捉えられているわけです。

不動の地位を築いたかに見えるこのような説ですが、私は疑問をもっています。この問題を考える上では、哲学者アリストテレスが著したと伝えられる『アテナイ人の国制』が、中心的な史料とみなされてきました。そして、今までの多くの研究者は、そこに用いられているephesisという語の意味を探ることによって、ソロンによる裁判制度改革の実態に迫ってきました。しかしながら、このような手法には限界があります。というのは、『アテナイ人の国制』に見られる、ソロン以前から古典期に至る裁判制度の発展の図式が、基本的に前述の通説に引き継がれており、それと、実際に古典期に行われていた裁判手続との間には齟齬が見られるからです。現在このような視点から、研究を進めています。

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