2020/06/23 同窓会 社会福祉学科 産業福祉マネジメント学科 広報課

OB萩原浩史さんが「詳論 相談支援」を出版

卒業生の萩原浩史さん(1994年産業福祉学科卒)が、このほど単著「詳論 相談支援-その基本構造と形成過程・精神障害を中心に」を出版、寄稿をいだたきました。萩原さんは、地元大阪の社会福祉法人でPSW(精神保健福祉士)として現場で働きながら研究分野に携わり、2018年に学術の博士号を取得。著書は、相談支援が形成された要因を社会保障制度改革との関係から分析し、その本質がいかなる背景のもと「変容」したのか示したもので、相談支援の政策史を追った研究・書籍は画期的とされています。

萩原浩史さん(本人提供)
単著を出版した萩原浩史さん(本人提供)
私は精神保健福祉の実践現場に携わりながら、精神障害者に関連する政策と制度についての研究をしています。その成果として2018年度に立命館大学大学院先端総合学術研究科において博士(学術)の学位を取得しました。さらに博士論文に加筆修正を行い、このたび『詳論 相談支援-その基本構造と形成過程・精神障害を中心に』(生活書院、A5判、320ページ、4180円=税込)を出版させていただきました。その原点は福祉大での4年間だったと思います。

私にとって学生生活は「あっという間」ではなく、10年ぐらいに相当するほど長く、それでいてとても充実した時間でした。今からちょうど30年前の1990年に入学し、その後、毎日飽きることなく過ごしました。とりわけ熱心に取り組んだのが、太白区向山にあった宮城県中央児童舘(※2013年閉鎖)でのボランティア活動でした。児童福祉に関心があったわけではなく、強引に勧誘されたまま成り行き任せの参加でしたが、結果的に仙台を引きあげる当日まで続けることになりました。

ボランティア活動で実践っぽいことを積み重ねて行くうちに、グループワークに関心を持つようになり、塩村公子先生(現・総合福祉学部長)のゼミを選びました。塩村ゼミで実践を理論で紐解く作業を経験したことで、学ぶことの楽しさとボランティア活動にいっそうはまることになりました。こうしたそれなりに忙しい合間を縫いながら、講義が無くてもほぼ毎日のように学校へ出入りしていました。そのため「図書館に行くと必ず見かける」とよく言われました。熱心に勉強していると思われていたようですが、真相はスポーツ新聞を読むために図書館へ通っていただけでした。勉強はしていません。本当に熱心に勉強をしていれば、必修科目をいくつも落とすはずがありません。むしろ要領の悪い学生でした。その要領の悪さは最後まで変わりませんでした。

周囲がどんどん就職先を決めていく中、まだ進路が決まっていないことに気づきました。11月になってもゼミの課題などに真面目に取り組んだり、ボランティア活動の運営に悩んだり、スポーツ新聞を読むため毎日図書館に通い続けたり。人徳が薄いため、そんな生活を送る私に誰も忠告してくれません。年が明けるとさすがに「そろそろやばいな」と思いましたが、今はなき日之出会館で『ゴジラ』や仙台松竹で『男はつらいよ』を観に行くなど、卒業論文を提出した後も呑気に過ごしていました。その後、実習先から精神科病院を紹介され、卒業式の10日前にようやく進路が決まりました。進路が決まらないまま卒業式に出るのは気が引ける。それだけの理由で精神科病院を就職先に選びました。

精神保健福祉分野に興味も関心もなく、進路に考えたことは微塵もありませんでした。勉強も実習もしたことがないにもかかわらず、不真面目な理由と成り行き任せでPSWになってしまいました。そのせいか今も精神障害(者)の支援に特別な「思い」や「使命感」に乏しいかもしれません。しかし、長らく精神保健福祉の現場に携わることができているのも、無知なまま現場に入ったおかげで理想と現実の狭間に苦しむことが無かったからだと思います。
このほど出版された「詳論 相談支援」(クリックで生活書院Webサイトへ移動)
このほど出版された「詳論 相談支援」(クリックで生活書院Webサイトへ移動)
当初、仕事のほとんどは生活保護や障害年金の申請手続きなど経済的な相談への対応でしたが、次第に買い物、調理、掃除、安否確認などホームヘルパーや訪問看護が行う生活場面での支援を頼まれる機会も増えていきました。気がつくとさまざまな相談に応じる役割が与えられていました。「さみしくなったので話を聞いてほしい」などの不安解消、体調管理、人間関係のトラブル、恋愛問題、借金の返済、ゴミの出し方、引っ越しの手伝い、ゴミ屋敷の片付け、運転免許証の更新手続き、葬式の手配など、生活上の困りごとからほぼ雑談としか思えないものまで連日対応していました。それは今も変わっていません。

相談というと個室で時間を確保して行うものと思われがちですが、そのような場面は限られています。むしろ意識をしていないだけで、実は日々のかかわりから何気ない立ち話のように行われています。たとえば、食事中や喫茶店だったり、どこかへ出かける途中でばったり会った時など、雑談をしているかのように交わされるやり取りの中に日々の困りごとや不安が含まれていたりします。しかも、明確な答えを求めていない場合もあります。全く解決していないにもかかわらず、話を聞いてもらうだけで気持ちが落ち着くようなやり取りも少なくありません。これらを通じて、相談とは具体的な解決策を導き出したり、さまざまな支援(サービス)を調整するだけではないことを知りました。精神障害者は生活場面の些細なことで混乱しやすく、容易に生活を破綻させてしまう場合があります。一方、日常生活上の相談は、生活の営みが続く以上、際限なく広がります。

精神障害者が身近に利用できる社会資源は、私が就職した1990年代でさえ精神科病院、保健所、作業所しかありませんでした。1990年代の後半になってこうした生活の隙間を埋める仕事が国の事業になり、相談支援という制度になります。精神障害に伴う困難さは生活全般に及ぶ特性があります。制度化の背景には、こうしたことも反映されました。しかし、度重なる見直しにより、相談支援の対象となる「相談」が「報酬が発生する相談」と「報酬が発生しない相談」に整理されました。相談支援は労力の可視化や数値化が難しく、不定型な生活上の相談には報酬が設定されていません。私はどのような困りごとでも気軽に応じることが本来の理念だと考えています。そもそも相談支援はどのような意図で政策に位置づけられ、いかなる検討のもと制度化され、今日のように「変容」したのでしょうか。こうした問題意識から博士論文を執筆し、このたび書籍化する運びになりました。近年、障害福祉分野で注目されている相談支援を社会保障制度改革との関係から分析し、これまで言及されなかった相談支援が形成されるまでの過程を体系的・通史的に検証しました。とりわけ身体障害、知的障害と比べて独自の歴史的な経過をもち、不定型な支援を必要とされることが多い精神障害に焦点を当てました。

学生時代は対人援助技術を中心に学びましたが、実践を積み重ねて行くうちに政策に関心をもつようになりました。良い支援を行うためには良い政策が必要だからです。対人援助サービスは支援者の「熱意」や「使命感」に頼られがちですが、良い支援を安定して提供するためには採算性についても考えなければなりません。では、どのような政策や「財」を活用すれば良い支援を行うことができるのか。さらに不定型な支援にどのような価値と意義があるのか、その合理性を具体的に示す必要があります。私は実践現場に携わりながら、これらを今後の研究課題として取り組んでいきたいと考えています。「実践」と「研究」の二刀流というと聞こえは良いですが「軸足がしっかりしていない」と批判されることも少なくありません。しかし、社会福祉(学)は「実践」と「研究」が積極的に連動するべき領域だと年々強く思います。

かつて毎日通い続けた図書館に本書を寄贈させていただきました。現場で疑問に思ってきたことを淡々と調べ、こまごまとまとめ、結果的にこれまで見聞きしてきたことの集大成のようなものを書くことになりました。お手にとってご覧いただけると幸いです。(萩原浩史)

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