2018/01/23 医療経営管理学科

【授業紹介】「医療概論TBL」 

医療経営管理学科の特徴的な講義の一つ「医療概論」の、チーム基盤型学習(TBL:Team-Based Learning)について紹介します。

医療概論は1年生で受講する学科の必修科目で、「医療とは何か」を考えることをテーマに、講義と、医療に関する課題について、チームで話し合いを行って意見をまとめ、発表するTBLで構成されています。

医療概論のチーム基盤型学習(TBL:Team-Based Learning)

発表の様子
発表の様子
医療概論は医療経営管理学科の、1年次の必修科目です。医療という分野についての基礎的な知識を広く学びます。

その中で、前期と後期にTBLがあります。学生はTBLを通して、自分で調べ、考え、それについてグループ内で討論します。

前期のTBLのテーマは「疾患TBL」でした。いろいろな疾患について、具体的なケースを想定し、その疾患の概要のほか、治療法や医療費などについてチームで調べ発表します。

そして後期のTBLのテーマは「医療事故」でした。患者の取り違えや手術や投薬のミスなど、実際に報道された重大な医療事故についてチームで調べ発表します。

「医療概論」の目的

健康科学部の学生として、まず「医療」に興味・関心を持ってもらうこと。

授業の概要

病院・クリニックや医療機器メーカーなど、医療に関わる多くの職場で役立つような、基本的な考え方を身につけます。普段なかなか知ることができない病院内部のしくみや、治療のながれ、治療費の決まり方、カルテはどんなふうに書かれるのかなどについて、理解を深めます。また、報道記事などを参考に、医療事故、医療の質の地域格差、医療保険制度の疲弊など、現代の医療で浮き彫りにされた様々な問題についてもアプローチしてゆきます。

授業の進め方

前期〜後期を通し、①最初に医療経営管理学科の教員による「医療とは」の講義がオムニバスでなされます(2回)、その後、②与えられた課題(「医学史の偉人達」)についての調査と発表、③下記の授業計画に従って、年間で2回(ラウンド)(ⓐ「病気になったらどうするか、どうなるか」およびⓑ「医療事故」)のアクティブラーニングの一種である「チーム基盤型学習(Team-based learning; TBL)」を行う(TBLのそれぞれのラウンドでは、チューターとなる主担当教員の他に、ファシリテーターとして数名の教員や先輩たちが参加します)ほか、④医の倫理や医療制度、社会保障制度、公衆衛生、予防医学などについての講義を行います。
TBLの様子
TBLの様子
医療概論の後期の授業予定は、次のようになっております。

  1. オリエンテーション+「医の倫理(1):倫理宣言の歴史」
  2. 「医の倫理(2)」
  3. TBL:ケーススタディ:医療事故(1) 調査項目:取り扱う医療事故の選択、その経緯と問題点
  4. TBL:ケーススタディ:医療事故(2) 医療者側の見方、患者側の見方調査項目:取り扱う医療事故の選択、その経緯と問題点
  5. TBL:ケーススタディ:医療事故(3) 具体的な事故に即してチームで考えた改善点、対策
  6. TBL:ケーススタディ:医療事故(4) 各グループの発表会
  7. TBL:ケーススタディ:医療事故(5) 各グループの発表会
  8. 予防医学(1)
  9. 予防医学(2)
  10. 医療制度(1)
  11. 社会保障制度
  12. 医療制度(2)
  13. 医療法と医療計画
  14. 地域保健と公衆衛生
  15. 定期試験(筆記試験)
この中から、「TBL:ケーススタディ:医療事故(1)〜(5)」までを紹介します。

チーム基盤型学習(TBL):「医療事故」

医療安全 −医療事故を防ぐ様々な取り組み−

「医療事故」は、テキスト(「学生のための医療概論」第3版増補 千代豪昭/黒田研二 編 医学書院)の第1章「10 医療安全 医療事故を防ぐ様々な取り組み」の中で取り扱われています。学習する目的として「医療事故を防止し、患者に安全な医療を提供することは、医療従事者および医療機関にとって緊急の課題となっています。医療事故の防止に取り組みためには、医療事故とは何か、どのようにすれば予防できるのかについて理解する必要があります」と記載されています。具体的には「医療事故の種類」「医療事故の原因」「医療従事者の質の確保」「チームパフォーマンス」「ヒューマンエラー対策」などについて学びます。医療経営管理学科の「医療概論」では、医療事故についてTBLという形態で学習します。

10月2日の授業の冒頭での、伊藤教授の講義の一部

では、実際の講義ではどのような解説が行われるのでしょうか。ここからは、授業の冒頭の、伊藤教授の講義の一部を紹介します。

(以下、伊藤教授による、後期のTBL「医療事故」の概要説明)

「医療事故というのは裁判沙汰になっているようなケースが多いので、そういう意味ではきわめて扱いが慎重というか、いろんな面から考えてみなければいけない事件ばかりになっています。

医療事故はどんなに頑張って注意しても100%無くすということは 不可能です。みんなも自分のことを考えてみたらいいんだけど、同じことを5千回とか1万回繰り返してやりなさといわれたときに、1万回を全くミスが無くやれるかというと、どんなに注意しても必ずミスが起こります。

つまり医療事故のことを考える上では、人は必ず間違いを犯すというのが大前提となります。みんなも医療の世界に入って働く人たちですが、この医療事故についてのTBLを通して、こういう事故をゼロにすることはできないけれども、どのようにしたら減らすことができるのか、という観点を含めて5回にわたって議論したり、発表したり、発表を聞いたりして、考える機会にしてもらいたいと思います。

今日はチームの中で、役割分担を決めて、プリントにあるそれぞれの事故について経緯をインターネットで調べて、どの医療事故を扱うかを決めてください。

事故について、医療者側の見方・言い分、患者側の見方・言い分ということをそれぞれについて手分けして調べて、発表までにはその両者の言い分をチームの中でディベートをして、そのディベートに基づいてチームとしてはその医療事故についてどのように考えたのか、その事故を将来どのようにしたら事故が起きないようにすることができるか、という対策などを考えて、発表をしてもらいたい。チームでディスカッションをして、医療事故についての議論を深めていってもらいたいと思います。」

TBLとは何か

講義をする伊藤教授
講義をする伊藤教授
チーム基盤型学習(team-based learning,TBL)は、1970 年代後半、オクラホマ大学ビジネススクール教員のLarry K. Michaelsen博士が作り出した教育方法です(注)。

TBLでは教員の指導の下で、少人数グループによる学習活動を行います。学習活動では、学習グループに対する責任を一人一人の学習者に持たせ、チームの学習に貢献するよう促します。

TBLでは将来自分が直面するであろう課題を用いて、学習者の学習意欲を喚起します。またすべてのチームが同じ課題に取り組むことで活発な討論が起きることが望ましいとされています。学習活動の最後には各チームで学習した成果を発表します。

チームで学習することにより、学習者個人の学習が深まることと、学習チームが成長することをめざします。

(注)三木洋一郎・瀬尾宏美「新しい医学教育技法『チーム基盤型学習(TBL)』」日本医科大学医学会『日医大医会誌』2011;7(1)

TBLの調査・議論の進め方

各回では、チームに分かれて「医療事故」について学習を深めていきます。各回の学習内容は次のようになっています。

第1回
  • チーム内での自己紹介とチーム内の役割分担の決定、チームによる「医療事故例」選び
  • 各チームが選んだ疾患の発表
  • 疾患についての調査
  • 小テスト
第2回
  • 自分たちが選んだ医療事故についての医療者側の見方で考えてみる 
  • 自分たちが選んだ医療事故についての医療者側の見方で考えてみる 
  • 医療者側、患者側に分かれてディベート 
  • 小テスト
第3回
  • パワーポイントでの発表資料の作成をほぼ完成させる
  • 発表者は発表の準備に取りかかる
  • 他の発表に対する質問者は質問を想定
  • 自分たちが選んだ事故例について、前回の議論を踏まえて考えを整理
第4、5回 調査結果発表
  1. 要約(Abstract)
  2. はじめに(Introdcution):なぜこのケースを選んだか
  3. 調査方法・調査資料(Materials and Methods):どのようにして調査したか、どのような資料を用いたか
  4. 調査結果(Results):調査してわかったこと
    • 医療事故の経緯
    • このケース、事故はなぜ、起こったのか
    • どんなところに問題があると考えるか
    • 個人の問題か、それともシステム上の問題か
    • 法律的にはどうなっているのか
    • 被害患者が救済される(経済的なことも含めて)体制はできているのか
  5. 考察・議論(Discussion):このケースに関して、Teamで議論したこと、考えたことこのケースに関連した改善点、対策、再発防止策など
  6. 文献(References):出典の記載

医療事故TBLで扱う「医療事故例」一覧

  • 横浜市立大学医学部患者取り違え事件 1999-1-11
  • 杏林大学割り箸死事件 1999-7-10
  • 慈恵医大青戸病院事件 2002-11-8
  • 大野病院事件 2004-12-7
  • 千葉県がんセンター 腹腔鏡を使った手術を受けた患者11人が相次いで死亡 2008-2014
  • 群馬大学医学部外科手術(肝臓切除術)後死亡事件:群大術後死亡事件 2010-2014
  • 針抜き忘れ女性死亡 石巻日赤 2011-8
  • 内視鏡で大腸内に穴 女性死亡:内視鏡で大腸内に穴、45歳女性が死亡…岐阜 2011-11-5
  • 患者取り違え 別人の肺を切除 2013-9-20
  • 東京女子医科大学病院の2014年2月のプロポフォール投与事故:2歳児死亡
  • 造影剤投与の直後に女児死亡:愛知県常滑市 2014-6
  • 薬剤を希釈せず投与 患者死亡:沼津市立病院 2014-10
  • 人工呼吸器異常気付かず死亡 2015-8-4
  • 乳房全摘 取り違え 千葉県がんセンター 2015-10
  • 患者に異なる血液型を輸血 山梨中央病院が医療ミス 2017-6

調査結果のプレゼンテーション

発表スライド
発表スライド(左)と「発表会評価シート」の評価項目(右)
TBLの4回目と5回目は発表です。各チームの発表担当者がPCをもって壇上に立ち、プレゼンテーションをします。

発表ではまず、チームが担当した医療事故の概要を説明します。そして事故の経緯、患者のプロフィール、疾患や怪我の説明、どのような治療が行われていて、どの段階でどのような事故が発生したのかわかりやすく説明します。次に「なぜ事故は起こったのか」について、報道資料や裁判資料などから調査した結果を説明します。

今回の発表では、一見単純な判断ミスや、ケアレスミスが原因で起こっている医療事故の背景として、システムの問題として患者確認や投薬などの手順の問題、医療従事者が注意力を保てなくなるような勤務の過酷さ、個人の倫理観の問題など、チームで討論し、考察した結果が報告されました。

最後に改善点や再発防止策などについての見解を述べ、プレゼンテーションを終了します。発表を聞いている学生は、「発表会評価シート」を使って、それぞれのチームの発表を評価します。

チームで医療の問題を議論し、お互いの考えを深めるTBL

医療概論は、医療についての幅広い知識を得ると同時に、TBL等を通して、自ら考え、チームで討論し、これから医療の分野で働くということはどのようなことなのか、考えを深めるきっかけとなる授業です。 TBLは、自ら主体的に問題と向き合うこと、またチームで役割を分担して、コミュニケーションをとりながら物事を進める練習でもあります。 このような授業の積み重ねが、少しずつ一人一人の成長につながっていきます。

授業担当教員から

「医療概論」担当 伊藤恒敏 教授(医師)

授業担当の伊藤恒敏教授
医療概論は、医療経営管理学科の学生の必須科目です。受講学生に少しでも「医療」について具体的なイメージを持つようにしてもらいたいというのが主目的です。医療は奥が深いし、複雑です。医学という科学が基本で、それに社会制度や、国家政策などが関わって巨大な社会システムが出来上がっています。

特に前期「疾患TBL」(周りで誰かに起きる疾患を症例としてどのように医療システムを利用するか)と、後期の「医療事故TBL」(これまでに起きた重大医療事故をの問題点を掘り下げて議論する)は、この巨大な「医療」というシステムを少しでも具体的な身近な問題として捉えてほしいということで、それぞれ5回のコースで5-7人のチームを編制し、その中で調査、議論をしながら問題点をまとめてお互いに発表し合う、という独自のカリキュラムになっています。

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