科目別ガイドブック 2007

社会福祉学専攻

生活構造演習

担当教員● 雪江 美久
2単位SR1・2年

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テーマ

国民生活の再編過程に関する社会学的考察 —— 特に地域社会における社会・生活組織(システム)の問題を中心に ——

■ねらい

私たちの生活の有り様は戦前・戦後を通じて、近代化の流れのなかで大きく、しかも急速にその姿を変えてきた。戦後期(昭和20《1945》年以降)を見ても、特に高度経済成長期を境にして見られた国民生活再編の動きはすさまじいものであったといわれている。加えてここ数年来、かつての産業革命以上に社会的影響をもたらすといわれている、いわゆる「IT革命」の動きが、これまでの生活の有り様をさらに根底から、変革していくかのような動きを見せている。

このような動きは私たちの生活に一面では限りない便利さと豊かさをもたらしている反面、一方でさまざまな問題をつくりだし、人類規模、地球規模での問題解決への取り組みが求められていることは周知の通りである。

このような状況にあって、当面する教育や社会福祉の問題に取り組んでいこうとするとき、人々の生活の有り様がどのように変化し、問題がその変化とどのように関連して生起しているのかを的確に把握しながら、問題解決への方途を探っていくことは必要不可欠なことである。

社会の変化が急速であればあるほど、それまでの生活・文化様式との軋轢はつよく、問題発生の要因をつくりだしがちであり、その要因を除去したり、新しい動きに適切に対応する条件を整備していくことが求められる。ここで改めて、人々の生活実態を的確に把握し、問題が生起する背景を分析するとともに問題解決のための「理論と方法」が必要となっており、この点に関する力量をいかに身につけていくかは関係する領域の専門家にとっては、きわめて重要なことである。

「生活研究の理論と方法」については別に開講している「生活構造研究」主として文献資料を中心に理論に関する学習を行なう予定であるが、「本演習」では、「生活構造研究」と関連させて、より実際に即した学習を行なうことをねらいとしている。たとえば課題について統計資料や実際のフィールド・ワークを通じて受講生自らが各種の資料を収集したり、インタヴューを通じて情報を集め、分析作業を通じてレポートをまとめることなどを考えている。

ところで、「本演習」のテーマを「国民生活の再編過程に関する社会学的考察──特に地域社会における社会・生活組織(システム)の問題を中心に──」としたのは、前述したところであるが、戦後のわが国の社会変化はまことに急激であったが、とりわけ高度経済成長期を境に示された社会・生活変動は注目されるものであった。旧秩序の崩壊過程と新秩序の形成過程で見られた、さまざまな葛藤や問題の発生は以後のわが国の社会の発展のあり方や人々の生活の有り様に大きな影響を与えることとなった。まさにこの時期は歴史的にも注目したい「国民生活再編の時期」であったといっても決して過言ではない。時代はまた新しく「IT革命の時代」を迎え、新しい変革の時期を迎えつつある。

そこでこの時期に、「本演習」で、きわめて限られた条件のもとではあるが、改めてこの「国民生活再編の時期」にスポットをあて、日本人の生活・社会のあり方の変容過程を点検し、時代の動きのなかで“新しく手にしたもの”、逆に“失ってきたもの”をとらえ直してみることにする。この作業を通じて歴史の動きのなかから、これからの「生活・社会づくり」に向けて、なにがしかの示唆を得るための学習をすすめる。受講生の積極的な活動を期待したい。なお、「健康長寿」に関する研究成果についても取り上げたい。

「本演習」のすすめ方

4月開講後、受講生が確認された段階で、改めて「本演習」のスケジュール表を受講生に配布する。そこでおおよその年間学習計画を示し、それにしたがって「本演習」をすすめる。

なお、「レポート作成」および「本演習」に関する質問・応答などは原則として郵送かFAXによるが、電子メールでも可。

学習内容と方法

ここでは概要のみを記しておくことにする。受講生には、後日、より詳しく「本演習」のすすめ方、たとえば調査および内容、方法などについて資料を添えて説明・指導する予定である。

■学習内容(例)

  1. 地域社会の概要と当該地域の社会・生活組織(システム)の仕組・構成、運営、役割機能、などの歴史的変遷の調査。
  2. 上記1の現状における問題の発見。
  3. たとえば、「高齢社会における地域社会づくり」を実現していくために、「地域社会における社会・生活組織(システム)をどのように構築していったらよいか」についての提案。
  4. 予防福祉、健康寿命の延伸に関わる生活研究の方法。

■学習方法

  1. 基本的には、大学が指定するテキストないし資料による学習と、実際に受講生各自が現場に関わりながら学習する(調査など)方法を併用する。
  2. 調査については、担当教員と受講生自身が連絡をとりながらすすめるが、基本的には受講生の主体性を尊重する。したがって、たとえば調査法を用いた学習をする場合に対象地域の選定などは受講生自身が決めることになる。
  3. 学習・調査結果はレポートとしてまとめる。まとめ方などについては、後日、連絡する。
  4. 本演習の受講に際しては、予め「生活指導研究」を受講しておくことが望ましい。

「本演習」の評価

「本演習」は、最終的に提出する「最終レポート」と、学期中に提出を求める複数の「課題レポート」及び、指導過程の実績、スクーリングの結果(「スクーリング事前課題」を含む)などを総合して行なう。

スクーリングの事前課題

「スクーリング」の期間、およびもち方が現在不確定部分があるので、決まりしだい最終的な課題を連絡するが、現時点においては、上記「スクーリング事前課題」については、開講後、改めて受講生に対して指導教員より連絡する「学習指導」により、学習を開始し、この学習内容との関連で、下記の点に関することを「事前課題」とする予定である。

  1. 指導教員が指定する文献資料を読み、「わが国の高度経済成長期における国民生活再編の動きについて」各自関心のある問題を取り上げ、レポート(「課題レポート」)にまとめ、提出する。まとめ方、枚数などについては後日連絡する。
  2. 上記(1)の学習に関連して、各自、実際に地域社会を対象に調査をしてみたいことについて、テーマ、調査理由(問題意識)、調査方法、調査内容などをまとめてみる。まとめ方、枚数などについては後日連絡する。
  3. 「スクーリング事前課題」は、以上の流れのなかに位置づける予定である。

「レポート課題」(「最終レポート」)を作成する要領

本授業は「演習」であるので、「最終レポート」作成過程で随時指導していくので、ここでは概略のみを記す。

枚 数:

個別指導のなかで決める。

テーマ:

各自選択したテーマとする。

内 容:

各自選択したテーマによる。

各自が担当教員指導のもとですすめる学習・研究成果をまとめることになる。

参考文献

赤字=大学から送付される必読図書)

  1. 高度成長期を考える会編 PART1.個人編『誕生から死までの物語』 日本エディタースクール出版部、1985年
  2. 高度成長期を考える会編 PART2.家庭編『家族の生活の物語』 日本エディタースクール出版部、1985年
  3. 高度成長期を考える会編 PART3.社会編『列島の営みと風景』 日本エディタースクール出版部、1986年
  4. 宮本常一・高松圭吉・米山俊直監修 日本人の生活と文化1『町の暮しとなりたち』 ぎょうせい、1982年
  5. 宮本常一・高松圭吉・米山俊直監修 日本人の生活と文化2『村の暮しとなりたち』 ぎょうせい、1982年
  6. 宮本常一・高松圭吉・米山俊直監修 日本人の生活と文化3『海の暮しとなりたち』 ぎょうせい、1982年
  7. 別冊資料
  8. 佐藤郁也 『フィールドワーク』 新曜社、1992年
  9. 渡辺益男 『生活の構造的把握の理論−新しい生活構造論の構築をめざして』 川島書店、2000年
  10. 三浦典子・森岡清志・佐々木衛編 『「生活構造」リーディングス日本の社会学』 東京大学出版会、1994年
  11. 中根芳一編著 『私たちの生活科学』 理工学社、2001年
  12. 『地域社会学』に関する文献はスクーリング時に紹介する。
  13. E.F.シューマッハー、小島・酒井訳『スモール イズ ビューティフル——人間中心の経済学』 講談社、1986年
  14. 佐伯 啓思『人間は進歩してきたのか——「西欧近代」再考』 PHP研究所、2003年
  15. 佐伯 啓思『「欲望」と資本主義——終りなき拡張の論理』 講談社、1993年
  16. 佐伯 啓思『成長経済の終焉——資本主義の限界と「豊かさ」の再定義』ダイヤモンド社、2003年
  17. 村上陽一郎『安全学』青土社、1998年
  18. 辻 一郎『のばそう健康寿命』岩波アクティブ新書、2004年

なお、以上の他に、「本演習」に関する参考文献については必要に応じて紹介する。