担当教員● | 渡部 純夫 |
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20世紀は「児童心理学」が発展し、子どもに関心が注がれた時代であった。その結果、多くの研究がなされ、「子どもは小さな大人ではない」(ルソー)ことも科学的に明らかにされるようになった。子どもは発達し続ける存在であり、「児童心理学」はこの意味からも「発達」の一領域を担うようになった。また、生涯発達への関心が高まる中、乳幼児期から青年期までの発達の問題を取り上げるだけでは不充分なことも分かってきた。胎児期から死にいたるまでの生涯にわたる発達を考える必要性が生まれたのである。超音波診断法の技術開発が進み、胎児の研究が急速に進んだ。一方、今までは青年期以降人間の心身の機能は発達しないと考えられていたものが、中年期はもとより老年期でも発達し続ける面がたくさんあることがわかってきた。生涯発達という観点が必要になってきたのである。
生涯発達の考え方は、連続的な自己成長の過程におけるライフサイクルの視点を提供している。どのように生きどのように死んでいくのかという問題を投げかけてくることになる。その問題に取り組むために、発達の課題をどのように取り扱うかが重要になってくる。そこで、連続的なものである生涯を仮にいくつかの時期に分け(ライフステージ)、その時期時期における課題を考えていく方法が浮かび上がることになる。この手法は、エリクソン(Erikson,E.H.)の発達理論にも使われている。
生涯発達の考え方のもと、すべての人が何の問題もなく発達課題をこなしていければいいのだが、現実はそのようにはなっていない。人は、社会的環境に適応しようとする心理的努力のなかで生じるストレスや緊張を時にもてあましてしまうこともある。基本的には、心理・社会的危機を克服しながら、人は発達し続ける存在なのであるが、それがかなわなくなった時、どのように対応したらよいのかという問題が持ちあがってくることになる。
例えば、母親が子育てをしている時、子どもが思い通りにならず叩いてしまったとする。その時不思議な快感を感じ、その後ことあるごとに子どもを叩き怪我までさせるようになったとしよう。このとき、子育ては家庭の問題だから母親に任せ、まわりの人間は関わらなくていいということにはならない。どう関わるかが問われたとき、この発達臨床学の視点が必要になってくるのである。
本特講では、まず生涯発達の観点からみたライフサイクルの発達課題について学習する。特に漸成理論(epigenetic theory)と呼ばれているエリクソンの発達理論について学習しておくことが重要と考えている。
そして、発達理論を理解した上で、発達課題でつまずいた人にどのように関わればいいのかを学んでいくことにする。実践場面で、どのように「発達」と「臨床」を生かせるかが重要なポイントになる。
課題1 |
生涯発達という観点からライフサイクルを考え、ライフステージの課題をエリクソンと他の理論家を1人以上選び比較しながら、家族や学校・地域社会が果たす役割と合わせて検討しなさい。 |
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課題2 |
発達課題でつまずいた事例を取り上げ、まず事例の概要(家族歴・生育歴・病歴など)を説明し、関わりのポイントを時間を追って説明しなさい。最後に、その事例全般について考察をしなさい。 |
課題1 |
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課題2 |
自分が関わりを持ったことのある発達課題でつまずいた事例を取り上げ、事例の概要がよく分かるようにまとめる。そのさい守秘義務には十分注意を払うこと。そして、関わりのポイント(クライエントの変化・カウンセラーの考えの流れ・やり取りの中で気づいたことなど)を説明し、考察を加える。 |
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